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第38回――〈武藤昭平としては〉

連載
Bar YAMAGA
公開
2010/03/20   16:50
更新
2010/03/20   16:51
ソース
bounce 318号 (2010年2月25日発行)
テキスト
文/〈Bar YAMAGA〉のバーテン

 

33時。つまり朝の9時。俺、ウエノコウジ、勝手にしやがれのピアニスト=斉藤淳一郎、そしてトム・ウェイツの4人で、なぜか朝から〈Bar YAMAGA〉の店先にテーブルを出し、お好み焼きを作りながら酒を飲んでいる。そこに一人の男がふと現れ、われわれのテーブルにまぎれ込んできた。その男が言う、「武藤君じゃない。あ、みんなも。久しぶり。それにしても美味しそうだねえ」。忌野清志郎である。するとトム。「おう、キヨシロー。まだもうちょっと時間はかかるけど待っててくれい!」。しばらくして斉藤がお好み焼きの焼け具合を、ヘラでめくって覗こうとした。すかさずトム「まだまだ! まだ早い」。「サイトーッ!!」、俺とウエノで斉藤を威嚇。すると清志郎までも「君は何なの?」「す、すいません。あ、あのう、清志郎さん。僕、清志郎さんの大ファンなんですけど」「それが何なの?」と清志郎は一蹴した。ウエノが続ける、「サイトーッ! 清志郎さんが怒っちゃうだろっ!」。その時、「そろそろいいな。ひっくり返そう」とトムが手際良くお好み焼きをひっくり返した。次の瞬間、斉藤がヘラで返したお好み焼きを上から押さえつけようとした。そして、「押さえるなってばっ! ふっくら焼かなきゃ!」とまたしてもトムに叱られ、間髪入れずに全員から避難の声が斉藤を襲う。「サイトーッ!」「君は何なの?」……。

一息ついたところで、トムがお好み焼きの表面をヘラで軽く叩いてみる。「叩く音で焼けたかどうかがわかるんだよ……うん、もういいだろう。さあ、食おう!」。5等分にしたお好み焼きが、各自の皿に配られる。そしてウエノが俺に耳打ちする。「昭平、食べられる?」「一応、武藤昭平としては、これはがんばって食べないと。トムさんの自信作っぽいし」。そう言った俺は、もうあまり胃が受け付けないのも構わず、お好み焼きを口にした。「……あ、旨い!」。その俺の言葉を聞いたトム。「おお、そうか! じゃあ次は豚玉と、明太子もんじゃと、他は何にしようか……」。そして清志郎も「トムさん、いいね~、それ」「……」。

一通り食べ終わった頃、ウエノが俺に声をかける。「昭平!? だいぶ頭垂れてますけど……大丈夫か?」。そして俺、「武藤昭平としては、もう酒も食いもんも、もう……。武藤昭平としては……」。ついに俺は意識を失ってしまった。

……武藤昭平、あくまでも妄想の話。

 

深夜の妄想盤

忌野清志郎『忌野清志郎 青山ロックン・ロール・ショー2009.5.9 オリジナルサウンドトラック』 ユニバーサル

ベロベロに酔っ払った武藤さんご一行とは裏腹に、チャリンコに跨って颯爽と登場してくれた清志郎さん。その音楽と同様に、食べっぷりも豪快でぶっとくてとことんロックなもんだから……ますます憧れちゃいますって!

RAGE AGAINST THE MACHINE『The Battle Of Los Angels』 Epic(1999)

レイジは斉藤さんのフェイヴァリット・バンド。趣味は気象観察と語り、仲間内ではもっぱらいじられ役に回りがちな斉藤さんですが、コレを聴いてストレスを発散しているのでしょうか。部屋で一人首を振っている姿を想像すると……ちょっと怖い!?

 

PROFILE/武藤昭平

ジャズとパンクを融合させたオリジナルなサウンドで人気の伊達男音楽集団、勝手にしやがれのドラマー/ヴォーカリスト。2月にファースト・ソロ・アルバム『トゥーペア』(tearbridge)がリリースされたばかり。最新のスケジュールは〈www.katteni-shiyagare.com〉にて随時更新中ですよ~!