32時。わかりやすく言えば朝の8時。家路に着こうとしていた俺と、たまたま通りかかった勝手にしやがれのピアニスト=斉藤淳一郎、そしてその2人を捕まえたウエノコウジの3人で、ここ〈Bar YAMAGA〉にて朝から飲み直している。性懲りもなくカウンターで。そこにトム・ウェイツが現れた。俺がトムに声をかける。「あれ、トムさん今日もお仕事ですか?」「いや、今日は非番だから飲みに来た。ああ、ホッピーをくれ。黒ホッピー!」「あれ、トムさんって酒やめたんじゃなかったでしたっけ?」「誰が酒をやめたって?」。トムが軽く俺を睨んだ。するとウエノがすかさず斉藤に言う。「サイトーッ! トムさん怒ったじゃねえか! 謝っとけ」「す、すみません」。するとトム「お前ら腹減らねえか? ちょっと付き合え!」。そう言うとわれわれを店の外へ誘った。
店の入り口付近には簡易テーブルとビールケースの椅子があった。テーブルの上にはホットプレート。われわれは各自の酒を手にそこへ腰掛ける。そしてトム「いま注文したからな。焼くぞ!」。ウエノが俺に耳打ちする。「何焼くの? っつうか昭平食える?」「俺はいま食えないっすよ。MO'SOME TONEBENDERのベースの武井君なら食べてくれそうな……」「呼ぶ?」「無理でしょ。朝早すぎだし!」「RIZEのKenKenは? 若いし、食べるんじゃない?」「いずれにしても朝早いっすよ。しかもKenKenは食うより朝までセッションするほうが好きだし!」。そしてウエノがトムに訊く。「トムさん、何焼くんですか?」「お好み焼きだ。イカ玉」「……」。一瞬の沈黙の後、ウエノが口を開いた。「サイトーッ! ちゃんと食えよ!!」「サイトーッ! ちゃんとトムさんの指示に従って焼けよ!」。俺も便乗して斉藤を攻める。「ああ、はい」。するとお好み焼きのネタが登場。斉藤が受け取り掻き混ぜようとしたその瞬間、トムが怒鳴り声を上げた。「こらっ! 先にイカだけ焼くんだよ、イカ!」。そうやってトムはイカだけを取り出し、鉄板の上で焼きはじめた。そして2つのヘラを上手に使いこなし、イカを食べやすいサイズにカット。火が通ったイカをまたお好み焼きのネタに戻す。「ほら、よく混ぜろ!」とトム。そうこうしてる時、通りがかりの男がテーブルに近づいてきた。「いい匂いだな~。ここ空いてる?」。男は勝手にわれわれの席にまぎれ込んで座った。
……武藤昭平、あくまでも妄想の話。
深夜の妄想盤
MO'SOME TONEBENDER『SING!』 コロムビア(2008)
ユニークな衣装でもお馴染み、モーサムのガテン系担当こと武井さん(右の人)。体重もさることながら、ベースが重たいの何のって……そりゃエネルギーをたっぷり補給しなきゃそんなサウンドは出せませんよね! というわけで、今度ウチの店にもお金を落としに来てください!!
RIZE『K.O.』 ユニバーサル(2008)
こちらのKenKenさんも、非常にヘヴィーな音でリスナーを〈K.O.〉しまくっている豪腕ベーシスト。毎晩のように呑み歩いたり、セッションしたり……そのロケンローな日常をブログで拝見するにつけ、朝の8時に呼び出しても駆けつけてくれたんじゃ?と思う次第。若さに嫉妬でございます。
PROFILE/武藤昭平
ジャズとパンクを融合させたオリジナルなサウンドで人気の伊達男音楽集団、勝手にしやがれのドラマー/ヴォーカリスト。このたびセカンド・ソロ・シングル『ワインレッドの心/リコ』(tearbridge)がリリースされたばかり。最新のスケジュールは〈www.katteni-shiyagare.com〉にて随時更新中ですよ~!