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第551回 ─ KRAFTWERK

連載
NEW OPUSコラム
公開
2009/11/04   18:00
ソース
『bounce』 315号(2009/10/25)
テキスト
文/村尾 泰郎

バンザイ! ジャケも新たに、名盤の数々がリマスタリングされて生まれ変わったよ!!


  世界中がビートルズで沸き立つなか、〈キング・オブ・テクノ・ポップ〉ことクラフトワークの諸作品も11月11日にリマスター化される。振り返れば、クラフトワークが結成されたのは70年。実験的な電子音楽から始まり、独自のサウンドを追求していくなかで辿り着いたエレクトロニックでミニマルなサウンド――それが初めて大々的に注目されたのが、4作目にあたる74年発表の『Autobahn』(Capitol/EMI Music Japan、以下同:1)だった。それから今年で35年目を記念して、今回のリイシューには『Autobahn』以降の8作品がラインナップされている。

 順を追って紹介していこう。『Autobahn』のタイトル曲がヒットしたことを受けて制作された『Radio Activity』(75年:2)は、プログレ色の強かったデビュー時に比べると曲はコンパクトになり、演奏のミニマル化が進行。続く『Trans-Europe Express』(77年:3)では、シーケンサーとビートの絡みがさらに洗練されていき、また、タイトル曲がアフリカ・バンバータ"Planet Rock"でネタ使いされるなど、そのサウンドはヒップホップ・シーンにも大きな影響を与えていくようになる。そして、彼らが自分たちのスタイルをサウンド/ヴィジュアルの両方で完成させたのが『The Man-Machine』(78年:4)だ。レトロ・モダンなイメージに包まれながら、無機質なようでいてどこか温かみのあるここでのプロダクションは、日本の音楽評論家によって〈テクノ・ポップ〉と名付けられ、その呼び名は瞬く間に日本中に広がっていったのである。

 YMOやディーヴォ人気も手伝ってテクノ・ポップがブームとなるなか、『Computer World』(81年:5)をリリース。リズム・トラックはより複雑になり、各楽曲の完成度もピカイチ。なかでも"Pocket Calculator"は5か国語で歌われ、日本語ヴァージョン〈電卓〉も話題となった。続く『Electric Cafe』(86年:6)ではアナログA面の3曲をミックスして繋ぎ、そのメドレーが後にライヴでの定番となることに。

 さて、この頃から巷では彼らに影響を受けた新世代が登場しはじめたわけが、そうしたチルドレンの動向を見据えて発表したのが、代表曲をクラブ・ミュージック対応にヴァージョンアップした『The Mix』(91年:7)だ。しかし、同作リリース後、オリジナル・アルバムとしては17年ぶりとなる2003年の『Tour De France Soundtracks』(8)まで、彼らは長い沈黙に入ってしまう。ちなみにその〈Tour De France〉では、最新機材を使用したことでサウンドの質感は変化したものの、変わらぬストイックさとビートの軽やかさを披露し、〈本家〉の風格を感じさせてくれた。

 常にシーンの動きや最新の機材を見据えながら活動してきたクラフトワーク。それだけに今回のリマスター化は、彼らにとって必然であり、重要なプロジェクトだったに違いない。その証拠とも取れるのが、慣れ親しんだアートワークの一部を一新したこと。まるで道路標識のように明快な新デザインは、これまで〈道路〉〈ラジオ〉〈列車〉など、アルバムごとにシンプルなコンセプトを持ち込んだ彼ららしいアイデアと言えよう。過去をただ再現するのではなく、さらにアップデートしていく――そんな彼らの基本姿勢が反映されたリイシューだと思う。