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第79回 ─ ASA-CHANG & 巡礼

連載
SPOTLIGHT!
公開
2009/06/24   18:00
更新
2009/06/24   21:40
ソース
『bounce』 311号(2009/6/25)
テキスト
文/望月 哲

狂った世の中にも、意味をなさない音楽にも、嘆き飽きたらすかさずコレを聴け!

  間違いなく、BGMとしては成立しない音楽──ASA-CHANG&巡礼のニュー・アルバム『影の無いヒト』を聴いて真っ先に思ったのは、そんなこと。軍隊の行進を思わせる不穏な足音で幕を開けるオープニング・ナンバー“コトバを連呼するとどうなる”、狂おしいまでにメランコリックな旋律の上を、自問自答にも似た言葉の数々がスリリングに連なっていくタイトル曲など、思わず息を呑むような緊迫感の漂うムードに満ち溢れている。ASA-CHANGがバンマスを務めていた頃の東京スカパラダイスオーケストラ曲にSAKEROCKの星野源が歌詞を付けた“ウーハンの女”、奇妙なエキゾティシズムを感じさせるバートン・クレーンのカヴァー“家へ帰りたい”など、ASA-CHANGらしいユーモアのある楽曲も収録されてはいるが、それすらも僕らが日常を送る、シリアスなようでいて素っ頓狂な(どんな凶悪事件よりも、芸能人の泥酔事件が大きな物議を醸し出すような)世界を巧みな筆致でカリカチュアライズしているように感じられる。

 時代の空気が生々しく反映されているという意味で、すこぶる真っ当な〈大衆歌謡集〉といえる本作は、一方で毒にも薬にもならない音楽が日々垂れ流される現状に対し、義憤にも似た思いで真っ向から問題提起を投げ掛ける音楽家・ASA-CHANGの真髄を強烈に感じさせる、文字通りの〈問題作〉でもあると思うのだ。