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第78回 ─ 中村まり

連載
SPOTLIGHT!
公開
2009/06/24   18:00
更新
2009/06/24   18:18
ソース
『bounce』 311号(2009/6/25)
テキスト
文/北爪啓之

〈本当に日本産?〉と思わせつつ、日本人的な情緒も覗かせた良作

  フォークやブルーグラスなどのアメリカン・ルーツ音楽を完全に消化したサウンドで、鮮烈な魅力を放つシンガー・ソングライターだ。14~17歳という人生でもっとも多感な時期をアメリカで過ごした中村まりは、2000年から弾き語りによるライヴ活動を開始。2002年に自主制作で初作『Traveler And Stranger』を、2005年には全国流通盤の2作目『Seeds To Grow』を発表している。そしてこのたびリリースされた4年ぶりとなるニュー・アルバム『Beneath the Buttermilk Sky』、これが素晴らしい。全曲が英詞だが、ネイティヴにしか思えない発声のヴォーカルはマリア・マルダーやエミルー・ハリスといった麗しのルーツ系歌姫たちに比べてもまるで遜色がない。流麗なギターのフィンガー・ピッキングは、本場の猛者たちとも互角に渡り合えるほどに驚異的な腕前である――とまあ技術面だけでも十分聴き応えはあるのだが、本作の独創性は卓抜したセンスを持つ日本人だからこそ描けた、〈ストレンジャー感覚のアメリカン・ミュージック〉にこそある。彼女の音楽はしばしば〈土の香り〉と表現されるが、本作から感じられるのは〈風の香り〉だ。バターミルク色の空の下を軽やかに吹く一陣の風。その漂泊者めいた視点から紡がれるサウンドは確かにアメリカ的でありながら、どこか日本的な情緒も滲ませて、それが聴く者の郷愁を掻きむしるのだ。

 今年の〈フジロック〉に出演が決定している彼女の清風が、会場にどんな景色を運んできてくれるのか、楽しみでならない。