映像作家、アート・ディレクター、VJなど、さまざまな顔を持つ鬼才=宇川直宏が〈人間以外の森羅万象から見た世界〉をコンセプトに立ち上げた新プロジェクト、UKAWANIMATION!が、初のワンマン・ライヴを開催した。石野卓球やMERZBOW、STRINGRAPHYなどのアルバム『ZOUNDTRACK』参加組からアノ事件でアレ中のアノ人までを総動員したポップ・アヴァンギャルド・エンターテイメント・ショウの模様を、bounce.comでは詳細にレポートいたします!!

何が起こるか想像もつかない期待&ワクワク感を胸に足を踏み入れたLIQUIDROOMのメインフロア。だが、そこに広がる光景を目にした瞬間、思わず足を止めてしまった。いつもは広々としたそのスペースの半分近くが、何十本も張り巡らされた糸電話によって占拠されている。あまりにもシュールな光景に、ただ呆然と糸電話を眺めていると、奥より黒いシェードで顔を隠した5人の女性が颯爽と現れた。いよいよ、糸電話を弦楽器のように演奏するパフォーマンス集団=STRINGRAPHYのライヴがスタートだ。

糸を優しく撫でたり、揺らしたり、擦ったり、指で弾いたりすることで、プロが弾くヴァイオリンのように端整な音から、カエルの鳴き声みたいに潰れたノイズ音まで、「これ、本当に糸電話?」と思うほど、多様かつ彩り豊かな音色が紡ぎ出されるこの楽器。まずは、クラシックや民謡調の楽曲をしっとりと聴かせると、お次はYMO“ライディーン”の糸電話カヴァーに挑戦! チャカポコしたリズムボックスの音も、糸をリズミカルに弾くことで見事に再現されており、その熟練の技には圧倒されるばかり! さらに、アルバムにも収録されて話題を呼んだデリック・メイ“Strings Of Life”や、ギャラクシー2ギャラクシー“Hi-Tech Jazz”といったデトロイト・テクノの超定番曲カヴァーが投入されて、フロアが一気に沸くなかエレガントに幕引き。舞うように動き、体全体を使って演奏されるSTRINGRAPHYの、演者自体の鼓動も伝わるかのような迫力のパフォーマンスにはすっかり心を奪われてしまった。また観たい!

その後、DJ NOBUによるダーク&サイケな選曲のDJセットに浸っていると、今度はメイン・ステージにどこかで見覚えのある目玉顔の4人組が登場! 黒いタキシードにシルクハットを被り、ステッキ片手に歩むその姿は、どこからどう見てもUSの前衛アート音楽集団=レジデンツそのもの! スクリーンにて〈EBIS RESIDENTS〉と紹介された目玉どもは、本家レジデンツの楽曲をヘヴィーボトムなダンス・ミュージック調に次々と改編していく。さらに曲の途中では、目玉2人が電話で罵り合っているような謎の寸劇や、いかに過酷な状況でアイロン掛けを行うことができるかを競い合う超マイナー・スポーツ=エクストリーム・アイロニング(要するに、ただステージ上でアイロン掛けしただけですが……)まで、やりたい放題のステージを披露! 最後はムーディーなラウンジ・ミュージックをバックにアイロン台の上で優雅にカクテルを作ったかと思うと、4人並んで丁寧にお辞儀をして、そのまま仲良く手を繋いで帰って行った……。キツネにつままれた感じってこういうこと?
で、そんな意味不明の余韻に浸る間もなく、DJブースに登場したのは石野卓球。エコー感バリバリのブルース・ハープが会場いっぱいに広がると、御大ショーケンのアシッドなしゃがれ声が飛び交う衝撃のシングル“惑星のポートレイト 5億万画素”に突入! 原曲より数段マッシヴにビートが強化された、超フロア仕様のロング・エディット・ヴァージョンで、ストレンジな目玉世界に浸っていたオーディエンスを瞬時に熱狂の渦へと叩き込む。卓球はこれ1曲で会場を良い具合に温めると、あっさりと今夜の主役=UKAWANIMATION!にバトンタッチ。アーティスト写真やフライヤーでもお馴染み、ハットを被った覆面男2人組によるライヴは、アルバムの軸にもなっていたトランシーかつアッパーなダンス・チューンでスタート。フロアを揺るがす4つ打ちビートで狂騒的に突き進むなか、豪華ゲストが贅沢に登場するスペシャル・タイムへと突入する!

まずは、スタイル抜群の美女2人を伴って、アルバム『ZOUNDTRACK』のジャケットを脚線美で飾ったカリスマ・ダンサー=ジョンテが登場! ジャケのイメージそのままのテカテカ光るレオタードを身に纏った彼は、ウナギの視点で描かれた自身のヴォーカル曲“開いた身体は白い列島”のテーマよろしく、クネクネと身を捩じらせながら、大胆かつ華麗な動きで圧倒的なオーラを発散しまくる! 美女2人とのコンビネーションによる、目玉模様の傘を使ったダンスも艶かしく、一流バレエ・ダンサーのように均整の取れた肉体美には、たぶん男も女も関係なく魅了されたはず。「ジョジョの奇妙な冒険」のポルナレフみたいな髪型もグッド!
続いて登場したのは、日本のノイズ・シーンの代表格=MERZBOWこと秋田昌美。トレードマークの長髪をなびかせながらPCの前に静かに座ると、超高速にエディットされたブラスト・ビートに合わせて、金属的なハーシュ・ノイズをガンガンと発生させる! 荒れ狂う音世界にまみれながら、天高くコブシを突き上げていた幾人かのオーディエンスには、このノイズの先に素晴らしいサムシングが見えていたのかもしれない。
お次に登場したのは、グラサン&タバコというハスッパなスタイルがやけにカッコ良いねーちゃん……って、2 MUCH CREWのナンシー・フミじゃん! アルバムには不参加だっただけにこれは意外。金切り声で気の赴くままに「ウカワニメーション!」とか叫ぶ姿は、超エキセントリックでビッチ度も満点! 途中で、興奮のあまりか宇川直宏本人がステージ袖からダンスで乱入なんて一幕もあり、かなりお得感のあるパフォーマンスだった。
彼女と入れ替わりでマイクを取ったのは、フワフワとしたショート・ドレス姿が可愛すぎるMEG嬢。アルバムのなかでも一際キャッチーなスプーン目線(?)のナンバー“秘境の奥の虫歯の記憶”を、スプーンを握りながら優しく、スウィートに歌い上げていく。なんとなくスプーンが愛おしい存在に思えてくるから不思議だ。
最後は、リコーダーっぽい音がフロア全体を包み込む牧歌的なナンバーで終幕。4時間近くにも及んだ不思議なミュージック・ジャーニーも、これにてお開き……と思ったら、宇川直宏が再度ステージに登場。「本物のレジデンツを呼ぼうと思ったんだけど、何百万円もかかるっていうから、目玉のマスク作っちゃった(笑)」なんて裏話を軽く披露しつつ、彼が最後のスペシャル・ゲストとしてステージに招き入れたのは、なんとホリエモンこと堀江貴文!! 一瞬「そっくりさんか?」と疑ったが、「お騒がせしてすみませんでした」と挨拶して場内の笑いを誘うその声はまさしく本物! 著書「徹底抗戦」をちゃっかりと宣伝して、ドラを鳴らしながら宇川とともにステージ袖へと消えていった……。あらゆる意味でビッグ・インパクトの連続だった、UKAWANIMATION!の初ワンマン・ライヴ。まるで盆と暮れと正月と誕生日がまとめてやってきたような、こんなにもめでたくてカオティックな気分の夜には、二度と巡り合うことはないと断言できる!
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