上野 SCARSはアルバムが出た時(MIC)大将とかモノマネしてましたからね。一人で何役できるか、みたいな(笑)。真似されるって、すげえ個性があるってことじゃないですか。
ブロンクス MSCが出てきた時もそうだったよね。俺、SATUSSYと二人で漢君のモノマネしてたもん。
上野 でもホント、SCARSのフォロワーはめちゃくちゃ出てきましたよね。雨後の竹の子のごとくって感じで。
ブロンクス 渋谷も地方もそうだけど、最近の大所帯のクルー・ブームに火をつけたのはやっぱりSCARSだと思うよ。
上野 そうっすねえ。俺らのZZ PRODUCTIONとかブロンクス君たちのSDPとかとはなんか違う。
ブロンクス 何が違うんだろうね。
上野 NITRO(MICROPHONE UNDERGROUND)の真似でもないと思うし。
ブロンクス USの新譜も詳しいとか、ハスラー的なトピックとか、そういうところだったのかな。
上野 新潟でSEEDAを中心にマイクを回して“HOMIE HOMIE”をやったことがあって。あれはいい思い出だなあ。
ブロンクス “HOMIE HOMIE”は雰囲気がUSっぽいっていうか、何か垢抜けてたよね。
佐藤 それまでは、向こうのものをそのままリリックまで持って来ちゃうと認められないっていうのがあった。「日本人のクセに」みたいな。だけどSCARSからアリになった。
ブロンクス 風向きが変わったんだよね。
上野 それはもうキャラとスキルじゃないすかね。それに尽きると思うんすよ。
ブロンクス あと、なんせSCARSはパンチラインが多かったよ。誰が誰だか区別が付かない頃から、みんな曲だけは歌えてた。
上野 不思議なグループだな~。でもほんと、SCARSで風向きが変わったのは間違いないっすよね。やってる方としては相当な焦りがありましたよ。ああいうんじゃないとウケないんじゃないか、とか。
ブロンクス 渋谷VUENOSとかで自分たちより下の世代のライヴを観てると、〈ハスリン〉とか〈ディール〉をみんな連呼するようになってた。SCARSの登場で、モラルの境界線を跨いだ感じは確かにありましたよね。
佐藤 やっぱ風が吹いたんだよね。それまで吹いてなかったやつらに。
ブロンクス それまで不良って言ったら、巻き舌で単調なラップってイメージだったのが、ワルいやつの歌詞の方がおもしろいんじゃないかって思考回路にみんな変わった。まあ、ウェッサイやサウスがフロアで流行ったことで偏見がなくなったんだろうね。
上野 それはむちゃくちゃわかるなあ。ほんとリリックがおもしろいんですよね。ヤベえなあと思ってた。
佐藤 A-THUGとか、決してラップはうまくないんだけどね。
ブロンクス そこが逆に魅力なんすよね。B-BOYも度が過ぎると、小節数とか関係ないんだなっていう。
佐藤 A-THUGはリリックを紙に書かないから、録る度にリリックが違う。
上野 ハンパなさすぎる(笑)。真面目にヒップホップをやってきた人間からしたら、何もかもが反則すぎた(笑)。
ブロンクス でもさ、じゃあSCARSを中心とした現場があったのかって言ったら……。
上野 クラブやイヴェントは特にないんすよねえ。だけど若手がみんなSCARSみたいになってるのを見て、果たして俺と吉野は受け入れられんのかっていう。SD JUNKSTAとか、昔からいっしょにいる人たちに対しては全然不安はないけど、若いやつらは俺らを毛嫌いしてんじゃねえかなと思っちゃうんすよ。でも意外に盛り上がって「セーフ!」みたいな。
ブロンクス (笑)、だから〈CONCRETE GREEN〉以降は、何でもアリに変わったんだよね。SD JUNKSTAもアリだし、上ちょたちもアリだし、(マイク)アキラ君もアリみたいな。NITROがすごかった時期は、ダースレイダーはナシとか、そういう雰囲気があったじゃん? 〈CONCRETE GREEN〉は振り幅がすごく幅広かった。
上野 確かにそれはあるかも。
ブロンクス そう考えると、2006年がいろんなものの境目だったんだよね。そして2007年にはキー君(NORIKIYO)も出したし……。
上野 俺らも2007年にファースト『ドリーム』を出しましたからね。そういえば『ドリーム』のレコーディング中、クルマのなかでSCARSばっか聴いてたもんなあ。
佐藤 SCARSは、BES君とかSEEDAのラップの上手さと、STICKYとかの歌詞の良さ。そのバランスが良かったんだよね。
ブロンクス あの頃はライヴで〈俺らイカしたドラッグディーラーMC's〉ってよく歌ってましたよね。
佐藤 あれがいちばんヤバかったんだよ、A-THUG“PAIN TIME”の……。
ブロンクス 〈BLOODSとつるみ/CRACKを作り/BLOCKを仕切り/GLOCKを握る〉。あれはビビったな(笑)。
上野 すごかったなあ。確かにあのパンチラインはすべてを塗り替えたかもしれない。想像力を掻き立てるというか。
ブロンクス “SCARS”のSTICKY君のヴァースもヤバいよね。
上野 〈ガキの頃から変わらないこと/ダチと立ち続けたSTREET/JAILがこのGAMEの代償/見てきたGHETTOはマジリアルな場所〉……。
佐藤 〈この世界は俺らのもの、誰にも邪魔はさせねえ当然だろ?〉っていうね。
ブロンクス あのヴァースは一語一句が全部ヤバい。でも実際、あの時点ではラップのキャリアが短い人もいるんですよね?
佐藤 bay4kはたぶん1年しないくらい。STICKYもそんなもんだと思う。
ブロンクス マジすか!?
佐藤 たぶん、いちばん最初に録ったラップがSEEDAのミックスCDに入ってる曲だと思う。
ブロンクス SEEDA君とI-DeA君とBES君が入る前のSCARSは、みんな中学の同級生なんすよね。カン君(bay4k)が先輩で。そういう意味では、出所はSD JUNKSTAとか、上ちょなんかのドリームハイツの面々と変わらないんだけど……。
上野 つるみ方が全然違いますよね。3者3様、到達点がまるで別(笑)。同じ中学なのかあ。
ブロンクス SD JUNKSTAとSCARSがいっしょにやるようになった頃、「SDってほんと仲良いね」って言われたんだよね。「うちらは1日1回揉める」って。そんなことないでしょってその時は思ったけど、実際、あれから3年くらい、ずっと楽しませてもらってます、みたいな(笑)。
上野 仲が悪いってのはすごいなあ……。
ブロンクス 仲が悪いというか、みんなで手を取り合って同じ目標に向かって~みたいなキレイゴトを信じてないだけなんじゃないかな。STICKY君なんて歌詞ではあんな酷いこと言ってるけど、本当はすごい優しいからね。でもさ、想像の余地があるというか、N.W.Aだって最初「本当にこいつら言ってることやってるのか」って思われたと思うけど、SCARSも見事に勘ぐらせたよね。
上野 釣られざるを得ないくらい過激でしたからね。