サウンドの方向性を大胆に変更し、心機一転の再出発を果たす!

先鋭的なクラブ・ミュージックから、生楽器を中心としたサウンドへの移行――大沢伸一の全面プロデュースによる2005年のファースト・アルバム『nobuchikaeri』を経て、3年半ぶりとなる信近エリのニュー・アルバム『hands』。ここでのサウンドのモード・チェンジは、シックに洗練されながらも濃密なエモーションをしっかりと残す彼女の声の良さを際立たせるという意味において、大正解だと思う。
さかいゆうが手掛けたリード・トラック“きみなんだ”は、ソウル~R&Bの雰囲気をさり気なく感じさせるメロディーのなかを、〈なんだかんだきみなんだ〉に象徴される心地良いライムが溶けていくミディアム・チューンに。また、DSK(Port of Notes)のプロデュースによる憂いに溢れたトラックが印象的な“Calling you”、彼女の書き下ろし曲をフォーキーな手触りを残してアレンジした高田漣の手腕が光る“せせらぎ”、沖仁とのコラボによるスパニッシュ・テイストのアコースティック・ナンバー“つなぐみらい”、ゆったりとした情感と大らかな開放感を併せ持つ旋律が素晴らしい、大橋トリオの手によるミディアム・バラード“DEEP BLUE”――と、楽曲のクォリティーは高水準。いま音楽シーンの各方面で注目を集めているさまざまなタイプのアーティストとの交流によって、彼女のヴォーカルにもさらに深みが加わったようだ。また、ルーツ・ミュージックを親しみやすいJ-Popとして表現するバランス感覚も抜群!
デビューから5年。今年24歳になる彼女はいま、ようやく自分のスタイルを確立しつつある。そんな確かな手応えを感じさせる充実作だと思う。