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第493回 ─ THE KING IS 90

連載
NEW OPUSコラム
公開
2009/05/21   02:00
更新
2009/05/21   17:39
ソース
『bounce』 309号(2009/4/25)
テキスト
文/出嶌 孝次

ナット・キング・コールのトリビュート盤!

  1919年生まれ、ということで生誕90年の節目に登場した、ナット・キング・コールのトリビュート盤『Re:Generations』が素晴らしい。しかもいわゆるカヴァー企画ではなく、故人の音源をさまざまに加工した疑似共演リミックス集というフレッシュな趣向である。ナットの疑似コラボ作では、娘のナタリーによる『Unforgettable』(91年)と続編の『Still Unforgettable』(2008年)という先例もあるが、今回はナズが“Can't Forget About You”(2006年)で“Unforgettable”をネタ使いしたように、偉人を大胆に素材として扱うことで、却ってヴィンテージな質感を生み出しているのが興味深い。ややもすれば〈温かい〉〈優しい〉と形容されがちなナットの歌が、ここではスタイリッシュでディープで最高に格好良く響いてくるのだ。

 そんなわけで“Can't Forget About You”のプロデューサーだったウィル・アイ・アムがナタリーと共演し、ナズもサラーム・レミを伴って参加。シー・ローやルーツのソウルフルな仕事も良いが、ライヴ感のあるネタ捌きが格好良いカット・ケミストの“Day In Day Out”と、〈ナットが70年代にスティーヴィー・ワンダーと共演したら?〉という妄想を具体化したようなアンプ・フィドラー製のメロウ・チューン“Anytime Anyday Anywhere”がズバ抜けている。他にもスティーヴン&ダミアン・マーリー兄弟のカリブ風味、ベベウ・ジルベルトのブラジリアンな愁い、TVオン・ザ・レディオのダークな緊張感……と、個々のメンツが自身の持ち味を違和感なくナットに馴染ませている姿も良い。

 多くのリスナーにとっては音楽の歴史書にモノクロ写真で載っている偉人かもしれないが、本作を聴けばこの天才シンガーの格好良さをリアルに感じてしまうはずだ。いや、マジで。