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第74回 ─ 中村ジョー

連載
SPOTLIGHT!
公開
2009/05/07   16:00
更新
2009/05/07   17:51
ソース
『bounce』 309号(2009/4/25)
テキスト
文/ヤング係長

自然体で奏でられる音と歌から滲み出る、偽りのない素顔


  90年代中盤よりハッピーズのフロントマンとして活躍し、脱退後の99年にソロ・ユニット=JOEYをスタート。のちにバンド形態となるも2002年に解散してソロ活動へ――ソウルと歌謡、GSとガレージ・ロックを行き交うような音楽性でリスナーを魅了してきた中村ジョーが、ハッピーズ時代から彼をレコメンドし続ける曽我部恵一のレーベル、ROSEからセカンド・アルバム『Sweet Heat』をリリースした。

 聴いてまず思うのは、力の抜けた自然な佇まいだ。わざとらしさや破綻がなく、日常生活の延長にある音楽。また、熟れる直前の果実のような瑞々しさがある一方で、諦念を味わった大人にしか出せないビターな印象も併せ持つ。何というか、〈自分がどう見られたいか〉という打算も込みで彼の人間性を脚色なく音楽にしてみたらこうなった――そんなアルバムではないだろうか。昭和のソウル歌謡のようなフィーリングを持つ“恋になってしまった”、AOR~シティー・ポップにも通じる軽快さがある“メロディ”、ファンキーなガレージ・ポップ調の“スカム”、ミニマルなオルガンがサイケっぽい“揺れる”など、曲調はさまざまだが、どの曲にも一滴の切なさが入り込んでいるのが味わい深い。引き算で作られたバンド・サウンドと、ブルージーでザラっとした質感のヴォーカルとのバランスも素晴らしい。そして無骨なようで、優しさと懐の深さを感じさせる男らしさが随所から漂ってくるのもまた良いのだ。

 40歳を前にして差し掛かった彼なりの境地――目の前のダサイ/カッコイイという価値観の先にある自己表現とはこういうものなのではないだろうか。