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第8回 ─ bounce.com SELECTION 0904

連載
bounce.com SELECTION
公開
2009/04/30   17:00
更新
2009/04/30   21:05
テキスト
文/bounce.com編集部

 今月リリースのナイス盤は、インタヴューやコラムをお届けしたajapai、rega、オレスカバンド、monobright、FACT、凛として時雨以外にもありますよ!……というわけで月末恒例、編集部によるこの1か月のオススメ盤〈4月編〉!

ポップに煌めき、ドープに轟く6枚 (Selected by 澤田)

MOCKY 『Saskamodie』 Crammed Disc/ windbell

ゴンザレスやジェイミー・リデルの盟友であり、彼らと比肩する特異なポップセンスの持ち主であり、殊にその〈特異〉の部分においては両者をも凌ぐ男、モッキーによる3年ぶりのアルバム。これまでの打ち込み密室ファンク的な作風から一転、本作では生楽器を巧みに編み上げ、オールドタイミーでありながら時制の曖昧な、マジカルなインストゥルメンタルを聴かせてくれる。ジャズ・コンボを基調とした柔らかな音像や、優美を極めたメロディーには現実感が希薄で、彼岸へと誘われるような幻惑感と中毒性がたっぷり。コンセプチュアルなフェイク・ミュージックの形を取りつつ、ポップ・ミュージックの普遍的な魅力に触れることに成功した傑作なのではないでしょうか。

R+NAAAA 『R+NAAAA』 disques corde

日本が誇るブレイクビーツ・マエストロ=RIOW ARAIが、5人の女性シンガーを迎えた新プロジェクトのデビュー・アルバム。バック・トラックは、砂原良徳の『LOVEBEAT』にも通じる、シンプルでエレクトロニックなワン・ループ。そこに5人がそれぞれのヴォーカルを乗せて行く歌ものダウンテンポ作品……なのだが、それでいて普遍的なポップスとして聴けちゃう親しみやすさを獲得しているのが素晴らしい。特に“ルーム4307”や“家”、“Aerial Line”といった楽曲には、まるで初期の大貫妙子を聴いているかのような洒脱なニューミュージック感覚があり、それがなんとも新鮮に響きます。

そのほかのナイス盤をずらりとご紹介!!

 DJとして長いキャリアを持ち、CRUE-Lの諸作に参加してきたDJ HIROAKIが、PSYCHOGEM名義のデビュー作『NU BALANCE』を発表。開放感たっぷりのバレアリックなダンス・トラックが揃っており、特に、原曲のイメージを継承しつつマッシヴなビートを轟かせる808ステイト“Pacific”のカヴァーには昂揚させられます。続いては、横浜をレペゼンする異能アーバン集団=PAN PACIFIC PLAYAの中心人物、(nou)のソロ作『SWEET MEMORIES』。これまではGファンクを独自解釈したメロウネス過剰なトラックで聴き手をとろけさせてきた彼ですが、ここではなんと、激ファンキーなミニマル・テック・ハウスを披露。官能的なビートの応酬に、結局は今回もとろけてしまうこと間違いなし。サンプリング・ミュージックを日記のように紡ぎ続ける奇才、LANTERN PARADE『ファンクがファンクであったときから』もまた、エロティックなグルーヴたっぷりの一枚。古今東西のディスコから選りだしたループの上で、即物的な言葉が呪文のようにつぶやかれていく。ECDや近年のゆらゆら帝国にも似た、いびつな手触りの衝撃作です。そのゆらゆら帝国によるリミックスを収録しているのが、ドラム&ギターのガールズ・デュオ、STONED GREEN APPLESのミニ・アルバム『Will You Marry Me?』。原曲のニュアンスを無視して、スカスカのローファイ・ガレージに変換したゾンビーズ“Time Of The Season”とエイコン“I Wanna Fuck You”のカヴァー2曲が圧巻! アシッドなベースラインの上で坂本慎太郎のギターがゆらめく、件のゆら帝リミックスにも痺れまくりです。

頭がクラクラの6枚 (Selected by 土田)

TOKYO BLACK STAR 『Black Ships』 Innervisions

 仏人DJ、Alex From Tokyoとエンジニア/プロデューサーとして活躍する熊野功雄によるユニットのファースト・アルバム。ダブ・ミニマルな“Deep Sea”~アンビエント・コンピ『Muting The Noise』にも収録されていた幽玄な“Kagura”あたりが個人的なツボですが、コズミックなシンセと無機質なキックが壮大な銀河を航行する宇宙船を思わせる冒頭の“Power Dreams”からパーカッシヴなリズムと極彩色のシンセが流星のごとく駆け抜けるラストの“Blade Dancer Beatless”まで、全14曲、どれをとっても出色の楽曲揃い。無数の光が飛び交う深い闇のなかに意識がじわじわと溶け出していくような、スピリチュアルな感覚を呼び起こしてくれます。

FLEET FOXES 『Fleet Foxes』 Sub Pop/TRAFFIC

 トラディショナル・フォークの土臭さを纏ったサウンドと、ゴスペル……というか宗教音楽の持つ敬虔で荘厳な空気感、無垢な美しさで彩られたコーラスワーク――。それらをゆっくりと攪拌し、さらに濃厚な靄で包み込んだようなサイケデリック・ワールドが広がる本作。その音世界から想起されるのは、デヴェンドラ・バンハートや初期のアニマル・コレクティヴ、はたまたゾンビーズや後期ビーチ・ボーイズなどにも通じる、奇妙な違和感。その美し過ぎる音世界を前にして、とんでもない多幸感に襲われる一方、何かが捩れてしまっているようなトリップ感に襲われる……そんな相反する感覚に陥りながらも抜け出せない、というか。つまりはリピート率の高い一枚です。これがサブ・ポップのニューカマーによるデビュー・アルバムというのもかなり驚き。素晴らしいです。

そのほかのナイス盤をずらりとご紹介!!

 そして後半4作品ですが、まずは国産エレクトロ・シーンの寵児、80kidzのファースト・フル・アルバム『THIS IS MY SHIT』を。彼らの十八番であるロッキンなトラックのみならず、フィジェットやヒップホップなどをアグレッシヴに喰らい尽くした、ヴァリエーション豊かなエレクトロニック・ポップ・ミュージック集です。個人的には、メランコリックなピアノのループがアルバムのラストをしっとりと締める“Arab Hertz Club”に涙。そして、80kidzのメンバーが生まれた80年代からエレクトロ・ミュージック界の第一人者として君臨しているデペッシュ・モードも、約4年ぶりのニュー・アルバム『Sounds Of The Universe』を発表。レトロ・フューチャーなサウンド・アプローチと官能的なメロディーが織り成す頽廃的な音世界は、やはり唯一無二です。続いては、エレクトロニカ作品のなかでは2008年度の私的ベストに認定したいno.9の『usual revolution and nine』のリミックス・アルバム『usual revolution and nine remix』をご紹介。bounce.comのエレクトロニカ特集にも登場したAmetsubやkashiwa daisukeをはじめ、ausやアイ・アム・ロボット・アンド・プラウドなどの超・超豪華リミキサー陣が、それぞれのパーソナリティーを全開にして名曲群を解体&再構築。特にno.9 orchestraによる“left the wind”のリミックスは、アコギとピアノ、ストリングスの旋律が広大な大地を駆け抜けるような疾走感に満ち溢れていて、もう高まる鼓動が止まりません! 字数が尽きてきましたが、最後はMY WAY MY LOVEのニュー・アルバム『I'll Cure You With Electricity』を。パンクやハードコア、シューゲイザーなどがマッシヴに交錯するオルタナティヴなサウンドと、ノイズや不協和音などの絶妙な〈ハズし〉とのバランス感覚が彼らの真骨頂ですが、本作は歌がよりメロディアスに進化した印象。ポップ要素の増強により、リスナーへの間口が格段に広がった好盤に仕上がっています。