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第7回 ─ bounce.com SELECTION 0903

連載
bounce.com SELECTION
公開
2009/03/26   17:00
更新
2009/03/26   20:07
テキスト
文/bounce.com編集部

 今月リリースのナイス盤は、インタヴューやコラムをお届けしたアーバンギャルド、鈴木惣一郎×土岐麻子×さかいゆう鼎談、ミドリ、rei harakami以外にもありますよ!……というわけで月末恒例、編集部によるこの1か月のオススメ盤〈3月編〉!

ダンス・ミュージック界隈で輝いていた6枚 (Selected by 澤田)

ROYKSOPP 『Junior』 EMI France/EMI Music Japan

ノルウェーが誇るエレクトロ・デュオによる、約4年ぶりの3作目。代表曲“Eple”の続編的な趣きの先行シングル“Happy Up Here”、現代型ミュンヘン・サウンド“The Girl And The Robot”、ディスコ・リエディット風のグルーヴを描く“True To Life”、オールドスクール・エレクトロなノリが楽しい“It's What I Want”などなど、今回もヴァリエーション豊かなトラックを揃え、哀愁と官能に満ちた美メロ・エレクトロ・ポップを徹底追及。ほぼ全編が歌モノ、かつ女性ヴォーカルの比率がさらに上がっているのも嬉しいところ。フジロックでのステージングがいまから楽しみ!

THE LONG LOST 『The Long Lost』 Ninja Tune

ソロ最新作ではレイヴに接近したりと、奇想天外な歩みを見せるブレイクビーツ・マエストロ、デイデラス。彼と、その奥さん=ローラ・ダーリントンとのユニットが発表した初アルバム。ここで展開されているのは、フォーキーでシルキーなアコースティック・ポップ。サンプリングやエレクトロニクスを随所で用いつつ、アシッド・フォークとボサノヴァを折衷したようなサウンドで、ジャケ通りの幻惑的な風景を描いている。西海岸でヒップホップとサイケの融合を試みるノーバディーの諸作や、昨今のフリー・フォーク勢と近い感触も。二人のデュエット曲があったりと、 仲睦まじい様子が伺えるのがまた微笑ましい逸品です。

そのほかのナイス盤をずらりとご紹介!!

 フレンチ・バンド、フェニックスのお気に入り曲を集めたコンピ『Kitsune Tabloid By Phoenix』が登場。レッド・クレイオラにインプレッションズ、タンジェリン・ドリームにルー・リード……時代もジャンルも超越しまくった選曲に、彼らの狂おしいまでの音楽愛を感じずにはいられません。もうひとつの注目コンピが、SOMAレーベルの人気シリーズ第三弾『Sci-Fi-Lo-Fi Vol.3 : Schoegazing 1985-2009』。今回のテーマは、なんとシューゲイザー! ジーザス&メリーチェインに端を発し、M83ら新鋭にまで受け継がれる甘美なノイジー・ロック史を総括しちゃうタメになる1枚です。近年はテクノ方面にもシューゲイズ・サウンドが波及してるわけですが、その界隈の筆頭であるグイ・ボラットの新作『Take My Breath Away』も素晴らしい。プログレッシヴ・ハウスにノイジーな音像を注ぎ込んでいく手法はそのままに、よりポップな広がりまでをも獲得してます。最後は、シカゴ発のエレクトロ・デュオ、ウォルター・ミーゴ『Voyager』を。なにかとカット・コピーを引き合いに出されるのも聴いて納得、まさにモデュラー直系のロマンティックなエレポップに仕上がってます。間もなくリリースされる国内盤には、ヴァン・シーとシンデンによるリミックスも追加収録。これから買う方には、ぜひこちらをおススメします。

キラキラ&ギラギラな6枚 (Selected by 土田)

PET SHOP BOYS 『Yes』 Perlophone/EMI Music Japan

 エレクトロ・ポップのベーシックを四半世紀以上に渡ってアップデートし続けている彼らの新作は、1曲ごとに目の前で新しい扉が開け放たれていくような――そんなフレッシュな感覚に出会えるポジティヴな仕上がりだ。ニールの哀愁ヴォイスと軽快なメロディーとの相性が抜群な“Love etc.”、チャイコフスキーの〈くるみ割り人形〉から派生した“All Over The World”をはじめ、冒頭から風通しの良い上質なエレポップが並ぶ本作に、絶妙な〈イマ感〉を注入したのはカイリー・ミノーグ仕事などで知られるプロデューサー・チーム=ゼノマニア。また、60年代の映画音楽を想起させる“Beautiful People”“Legacy”ではラスト・シャドウ・パペッツの初作でストリングス・アレンジを手掛けたオーウェン・パレットを起用したりと、細部までジャストな人選だ。総じて五つ星級の楽曲だけで構成された驚異のアルバムとなっている。

ANORAAK 『Nightdrive With You』 THISTIME

 キツネやエド・バンガーをはじめ、隆盛を極めるフレンチ・エレクトロ・シーンよりまたまた新星が登場! メトロノミーやジャンキーXLなどのリミックス・ワークでも注目を集めるアノラークは、西フランスのナントを拠点に活動するアーティスト集団、ヴァレリーの中心人物。モロなジャケから想像がつくかもしれないが、80'sリヴァイヴァルを標榜するコミューンだけに、本作もその嗜好を洒脱にブラッシュアップした内容だ。コズミックな煌めきを放つシンセとロボティックでディスコティックなリズム、ロマンティックでアンニュイなメロディーが形成するレトロ・フューチャーな音世界にただひたすらうっとり……なのだが、いかんせん1000枚限定プレスの日本上陸プロモ盤(輸入盤はほぼ完売の様子)。いまならまだ間に合うはずなので、気になる方は急いで入手を。

そのほかのナイス盤をずらりとご紹介!!

 毎月読んでくださっている方は薄々感づいているかもしれませんが、このコーナー、バランスとか全然考えてません。そんなわけで後半1枚目は上の澤田セレクションとかぶりますが、グイ・ボラットのセカンド・アルバム『Take My Breath Away』をご紹介。フロア仕様のビートが敷かれたミニマル作品ですが、アンビエント~エレクトロニカ・ファンも涙モノの美メロがもう……(絶句)。もしかしたら今年のベスト・テクノ盤になるような気がしたので(個人的にですが)、敢えて挙げてみました。続いては、19歳のシンガー・ソングライター、清竜人のファースト・アルバム『PHILOSOPHY』を。TVCMで初めて“Morning Sun”を耳にしたときから儚げな歌声が気になって仕方なかったのですが、口ずさまれている言葉はかなり辛辣。そんな激情をルーツ・ミュージックを基盤とした軽やかなポップスに昇華し、フラットに提示するスタイルに新しい風を感じます。そして次は、多種多様な楽器を操るポップ・マエストロ、トクマルシューゴの新作『ラムヒー』を大推薦。新曲と既発曲の新録ヴァージョン、ライヴ映像などから成るCD+DVDの2枚組ですが、新曲“RAM HEE”からして先頃発表されたアニマル・コレクティヴのニュー・アルバム『Merriweather Post Pavilion』とタメを張るほどの楽園ぶり。OORUTAICHIやディアフーフによる光の祭典のような煌めきリミックスにも悶絶です。で、ラストはソウル・フラワー・ユニオンの前身バンド、ニューエスト・モデルメスカリン・ドライヴのシングル・コレクションに初CD化音源なども加えた編集盤『Early Soul Flower Singles』を激推し! アイリッシュ・トラッドなども採り入れたソウルフルなパンク・サウンドでアイロニカルに社会を斬りまくった前者と、聴き手を極彩色のサイケデリック・ワールドに引き込んだ後者。反骨精神をギラつかせたエッジ―な楽曲の数々は、いま聴いても胸の奥に沸々とした感情を沸き立たせてくれます。