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第40回 ─ コロナド

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2009/03/26   17:00
更新
2009/03/26   18:17
ソース
『bounce』 308号(2009/3/25)
テキスト
文/青柳 拓次


  行きつけの中古楽器店で、店長さんに「エレキ・ギターなんだけど、アコースティックな鳴りのするもので、弾き語りとかにも使えそうなギターがあるといいなあ」というような問いを投げかけた。

「青柳さんは、これがいいんじゃないですか?」

 そう云って店長さんは、おもむろに壁にかかっていた古いギターを手渡してくれた。それが、フェンダー・コロナドだった。この楽器の存在は知っていたけれど、特別気にもしていなかった。名前が〈コロラド〉だと思っていたぐらいのフワリとした記憶のなかに、そのギターは浮かんでいた。何故だか、わたしはあえてこの意外なプレゼンに乗ってみようと思い、試し弾きをさせてもらう。

 なにげなく指で弾くと、その感触がそのままアンプから出てくる。この感じは、まるでアコースティック・ギターのようだ。しかも、音色がモノクロームの響きをしている。それだけでも〈これはもしや?〉と思わせるに十分だった。しかし衝動買いするような値段でもない。今回はとりあえず、弾くことのなくなったギターを二本委託に出すだけにして、頭を冷やすためにも一旦家に帰ろうと思った。店長さんと恒例の育児話を三十分して店を出る。 

 数週間して、「委託に出したギターの二本目がそろそろ売れそうです」という連絡をお店からもらう。売れた代金をどうしようかな、と考えていたとき、あのギターの姿が頭をよぎった。落ち着いて、これからどんな音楽活動をしていくのかをまず考えてみる。よし、エレキ・ギターが必要なのはわかった。次は自分が必要としているギターの条件を挙げてみることにした。トレモロ・アーム付き、シングルのピックアップを搭載していて箱のボディーであること、それから他のアーティストのイメージがあまりついていないモデルで可愛いルックス、サイズもちょうど良く、もちろん弾きやすいことも大事。想いを巡らせる途中で、彼女にしたい人の条件を挙げているようなヘンな気分になってしまったが、まあいい。なにはともあれ、あのギターがその条件すべてを奇跡的に満たしていたのだ。

 あの店長さん、見事におあつらえ向きの楽器を選んでくれたんだなあ。

 フェンダー・コロナド。

 さっそく店に連絡をいれ、コロナドを引き取りにいった。それから三ヶ月経ったいまも、毎日コロナドを弾いている。これまでエレキ・ギターを何本買っては売ってきただろう。このギターで打ち止めになるか、お天道様のみぞ知る。

PROFILE

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famo-usで活動し、昨年は伊藤ゴローと組んだTAKU & GOROで『RADIO INDIGO』(comm-mons)を発表している。現在公開中の映画「ホノカアボーイ」のサントラ制作にも参加。