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第39回 ─ 琴から書く

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2009/03/12   15:00
更新
2009/03/12   18:01
ソース
『bounce』 307号(2009/2/25)
テキスト
文/青柳 拓次


  08年7月、インチョン空港。

 東京行きの飛行機待ちで、弦の響きに袖をひかれる。チマチョゴリを着た女性が、韓国の文化を紹介するブースで琴を弾いていた。自分の知っている琴より小ぶり。日本の琴のタツンとした張った鳴りとはちがい、トトゥンとやらかい。直接指ではじいているからだろう。優雅な間を感じる演奏に、心ごと座り込む。

 つい先日、その琴と似た音を京都で聴いた。

 京都の茶房で、中国の武洟山で育つ茶木から収穫された〈岩茶〉を頂いていたときだ。

 女性店員に訪ねる。

「この音楽は?」「台湾の琴です。これは私が台湾に行ったときに買ってきたCDなんです」「韓国の空港で聴いた琴と似てるなあと思って」「ああ、ほんとですか!」「今月台湾に旅行するのですが、どこかおすすめありますか?」「お茶がお好きなら猫空はいいですよ」

 女性店員とよもやま話をするなかで、わたしがその前日に対談した農家の方が、じつは彼女の知人だったことがわかった。彼女は、今日付けでこの店をやめ、実家の滋賀にもどって食のことに携わる仕事を始めるという。

 この店に立ち寄ったのも〈人の導き〉だったことを感じた。

 茶房に行く前に訪れたのは、念願の河井寛次郎記念館だった。彼の本を何冊読んだだろう、と思いながら、寛次郎の暮らした家と作品を観てまわった。

 庭に面した小さな部屋があった。小さな机に花器。剣山には椿が生けてある。〈ここは茶室ですよ〉と椿の花が教えてくれる。

 二人の中年女性が先にくつろいでいたが、われわれに気づき、「どうぞどうぞ」と部屋をゆずってくれる。椿と庭を観賞しながら話をしていると、今度はヒゲを蓄えた男性が「中に座っていてどうですか?」と質問してくる。つぎはこちらが場所をゆずる番のようだ。そんな楽しむ循環のある茶室だった。
 
#印象に残ったもの

 タンスのような寛次郎作の神棚。狭い面に神棚があり、広い面の裏が食器入れで、表は飾り棚になっていた。

 神様も寛次郎の生活になじんでリラックスしているだろう。

PROFILE

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famousに参加するほか、昨年からは伊藤ゴローと組んだTAKU & GOROでも活動中。3月11日にリリースされた映画「ホノカアボーイ」のサントラにソロで参加。