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第6回 ─ bounce.com SELECTION 0902

連載
bounce.com SELECTION
公開
2009/02/26   18:00
更新
2009/02/26   18:49
テキスト
文/bounce.com編集部

 今月リリースのナイス盤は、インタヴューやコラムをお届けしたCOMA-CHI、FAR FRANCE、HANDSOMEBOY TECHNIQUE、Ametsub、kashiwa daisuke、MONO以外にもありますよ!……というわけで月末恒例、編集部によるこの1か月のオススメ盤〈2月編〉!

80年代再解釈&シンガー・ソングライター的な6枚 (Selected by 澤田)

NONA REEVES 『GO』 徳間ジャパン

冒頭でいきなり飛び出すド派手なエレ・ディスコに大衝撃。まるでユーリズミックス、もしくはフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド。しかも曲名は“A-ha”。その後も、ネプチューンズ・タッチのファンク“Go feat. Romancrew”や、きらきらした音色が流星のように降り注ぐ“Trance”などなど、80年代モード全開のキャッチー・チューンが並ぶ。とことんポップで80'sってのは、NONA REEVESに一貫して見出せる魅力だけど、本作では、その〈とことん〉の突き詰め具合が凄まじい。MTV時代を賑わせたあらゆる音楽を徹底的に消化し、血肉にしたうえで鳴らされる、エヴァーグリーンなポップ・ミュージックがここに!

ホテルニュートーキョー 『2009 spring / summer』 ROSE

今谷忠弘のソロ・ユニットが、曽我部恵一主宰レーベル=ROSEよりセカンド・アルバムをリリース。ブレイクビーツにエレガントな管楽器を絡ませた“マークジェイコブス”、エレピとスキャットが甘く溶け合う“let me turn you on”、ラウンジ仕様のトロピカルなフュージョン“都会の肖像”……クラブ・ミュージック経由のグルーヴと、クロスオーヴァーなアンサンブルを掛け合わせて、ひたすらスムースでメロウなサウンドを展開していく。ユニット名にも表れているような80年代的アーバン感覚を正しく音像として結んでみせた、ハイ・センスな傑作です。

そのほかのナイス盤をずらりとご紹介!!

 岡山在住の女性シンガー・ソングライター、とうめいロボが、2作目となる『とうめいな時間』を発表。前作は全編弾き語りでしたが、今回はJOJO広重を始めとする関西の豪腕&奇才ミュージシャンがバックアップ。時に静謐で、時に壮絶なアシッド・フォーク絵巻を展開してます。一方、海外からも素敵なフォーキー作品が続々到着。デヴェンドラ・バンハートとも交流の深いユニット、ヴェティヴァーは3年ぶりのオリジナル作『Tight Knit』で、年季の入った侘び寂びフォークを披露。オーストラリア初の歌姫、アビー・カードウェルによる2作目『By Hook Or By Crook』は、バンジョーの響きがひたすら心地よい逸品。米国のルーツ・ミュージックを吸収したブルージーなアンサンブルは、まるで70年代のシンガー・ソングライター作品を聴いているかのよう。エイミー・マンのファンにもおススメです。最後は、長いこと廃盤状態だった細野晴臣の89年作『omni Sight Seeing』が、ついにリイシューされたのでご紹介。アラブ・ミュージックやエレクトロ・ファンク、アシッド・ハウスまでを混在させたサウンドが、発表から20年を経た現在、なんとも新鮮に響きます。

ロングセールスに足る傑作では?思う6枚 (Selected by 土田)

ペトロールズ 『EVE 2009』 enn disc

“雨”のサビメロとか、気持ち良すぎて脳内リピートが止まらないんですけど……。90年代の田島貴男を彷彿とさせるセクシャル&スウィートな歌声と、テクニカルなリフの応酬をスマート&ポップに響かせてしまうバンド・アンサンブルの妙にやたらとグッとくる――。派手さはないけれど、確実に聴き手の腰を揺らすネオ・ソウルなグルーヴをロックのフォーマットで構築するスリーピース・バンドの初作が、タワーレコード限定で登場。さり気なく意匠を凝らしたコーラスワークをはじめ、シンプルなようでいて実は周到に計算されたサウンドを肩肘張らずにさらりと提示している点も素晴らしい。匂い立つようなメロウネスにメロメロになること必至の一枚だ。

CARL CRAIG & MORITZ VON OSWALD 『Recomposed By Carl Craig & Moritz Von Oswald』 Deutsche Grammophon

カール・クレイグとモーリッツ・フォン・オズワルドの共作が、何故ドイツのクラシック専門レーベル=グラモフォンから……? と思いきや、本作はカラヤンの生誕100年を記念して、デトロイト・テクノ~ミニマル・ダブ界を代表する両者が立ち上がった企画盤。天才指揮者のタクトにベルリン・フィルが応えた名演を解体し、ミニマル手法で再構築している。ラヴェルの〈ボレロ〉と〈スペイン狂詩曲〉、ムソルグスキーの〈展覧会の絵〉が、段階を踏んで静から動へ移行。抜き出された各パートが浮かんでは消えるアンビエントな序盤から攻撃的なビートが炸裂するクライマックスへ――。フル・オーケストラが一斉に激情を解放する瞬間の昂揚感とダンス・ミュージック的ループによる酩酊感がピタリと符合し、とんでもなくクールで壮麗な異空間が生まれている。

そのほかのナイス盤をずらりとご紹介!!

 バナナ味の豆乳は大好物ですが、バナナ・オレは苦手です。そして、ジョシュ・ウィンクの新作も素敵ですが、まずはマーティン・シュルトやアークティック・ホスピタルなどが所属するランタンのコンピレーション・アルバム『Monazite』をご紹介。ダブ~テック・ミニマルな佳曲揃いですので、その筋がお好きな方はぜひ。続いてはフレンチ・エレクトロ勢からユクセクのファースト・アルバム『Away From The Sea』を。ハウス、ロック、ディスコ、ヒップホップなどをアグレッシヴに、かつどこか頽廃的に交配させたサウンドはジャスティスやソウルワックスに通じるものがありつつ、個人的にはなかでも一番ポップで楽しい印象。クローメオやシットディスコ、スパンク・ロックのアマンダ・ブランクも参加した賑やかなパーティー盤です! サマソニも楽しみ。そしてお次に紹介するのは、ゴシップ的な話題に事欠かないためか、前作から3年空いた気がしないリリー・アレンのニュー・アルバム『It's Not Me, It's You』。バード&ザ・ビーのグレッグ・カースティンと共に制作された本作は、彼のイイ仕事ぶりが如実に反映されたカラフルなエレクトロ・ポップ集。ただサウンド面における路線変更があったとは言え、社会問題にまで踏み込んだ辛辣な歌詞をノスタルジックなメロディーに乗せて、とびきりキュートに歌うという彼女最大のチャームは健在。牧歌的に中指を立てる“Fuck You”なんて最高過ぎます。文字数が尽きてきましたが、最後はユニコーンの16年ぶりのニュー・アルバム『シャンブル』を。蒼い衝動やカタルシスとは離れたところで、ロックンロールの楽しさを改めて教えてくれる作品です。きっちり新作を携えての復活にも賛辞を送りたい!!