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第38回 ─ ロゼルとはちみつ

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2009/02/05   18:00
ソース
『bounce』 306号(2008/12/25)
テキスト
文/青柳 拓次


 ヤンバルの友だちの畑にたどりつくと、「ロゼル一緒に収穫してくれる?」「やろう、やろう」ということになる。

 二時間ほど、ゆんたく(おしゃべり)しながらハサミを動かす。こどもたちは、おとなたちが収穫したロゼルを籠から出して、皮をむいて遊ぶ。

 大きな籠三つが一杯になり、畑からおうちへ。

 テーブルのふかした紅芋をつまんでいると、「はあい、どうぞ」。ハチミツの一杯入った真っ赤なロゼル・ティー。

 おいしきものとのあいだ、またゆんたく。

 日が暮れ、山が冷え込む。薪ストーブをつけると、おとな六人が寄ってたかって料理をはじめる。さっき抜いたばかりの人参の葉っぱを揚げたり、もちをすりがねですったり、みそ汁をつくったり。

 ゴハンを食べ終わると、「うちの子たち、青柳君の音楽でよく寝るのよ」と友だちは言う。「ねえ、どの曲が好きなんだっけ?」「8番!」と娘。「聴かせてくれる?」と友だち。

「よしやろう」とギターを手にした。アルバムの8番ってどの曲だっけ? 最近やってないやつだな、別の曲にしてもらおう。弾きはじめると、一番下の男の子がテーブルに乗っかってヤンヤヤンヤ。
 
 娘が生まれたときに、ふと頭に浮かんだことがあった。

「この娘は、みんなの子だ。そして、みんなの子は自分の子なんだ。」

 それは、直感からやってきた気づきのようなもの。同時に人間が原始の時代から育んできた、まったくもってベーシックな感覚。

 友だちが、男の子のおむつが一杯なのに気づく。歌う私の前に、日に焼けた小さな背中とおしりが現れる。新しいおむつが、こちらを向いたおしりを包む。お姉ちゃんは、ピンクの自転車にまたがり、歌い手の顔を不思議そうにながめている。

 この光景に軍用ヘリの爆音なんて下品すぎる。ここヤンバルに、米軍のヘリパッドがまた作られようとしている。

PROFILE

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famo-usに参加するほか、2008年は伊藤ゴローとのユニット=TAKU&GOROでも『RADIO INDIGO』(commmons)を発表。現在はヨルグ・フォラートとのコラボ作品を制作中。