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第456回 ─ DEDICATION

連載
NEW OPUSコラム
公開
2009/01/29   15:00
更新
2009/01/29   19:07
ソース
『bounce』 306号(2008/12/25)
テキスト
文/出嶌 孝次

J・ディラの遺志を受け継ぐ3つの才能がアルバムをリリース


  その死からもうすぐ3年が経とうとしているのに、Q・ティップやPPPといった人たちの作品も含めて、J・ディラが遺した影響の大きさを痛感させられる機会は一向に減る様子がない。ここではより直接的なアプローチによる作品群を紹介しよう。まずは注目のイラJによる『Yanchy Boys』。〈ILLA J〉という名前からしてアナグラムのようだが、彼は正真正銘ディラの弟である(12歳下だそう)。これまでもブラック・ミルクやこちらのキッド・サブライム作品に参加してきた新人で、今回は全曲が兄の遺したトラックに歌とラップを吹き込んだものだ。当初はデリシャス・ヴァイナルが所有する90年代半ばの未発表ビーツでトリビュート盤を作る予定だったらしく、結果的に弟ならではの恩恵に預かっているのは確かだが……初期スラム・ヴィレッジにも通じるデトロイティッシュな揺らぎを備えた美しいディラ・ビーツとイラの温かい歌い口は相性抜群。表題通りにヤンシー兄弟のコラボ作品と呼ぶべき内容だろう。

  一方で驚きはルーク・ヴァイバートの『Rhythm』。特に近年はオルタナ・ディスコ的な印象の強かった彼が、ここでは自身のヒップホップ・ルーツに立ち返って、ディラに捧げるメロウ・ビーツを編み上げているのだ。幻惑的な鍵盤やスモーキーなレゲエ使いはカジモトなんかにも通じるトリップ感があって素晴らしい。で、そのカジモトことマッドリブも、新作『Beat Konducta 5-6: A Tribute To Dilla』ではより明確に追悼感を打ち出してきた。ディラの遺作『Donuts』に挑むかのように40曲ものビートで組み立てたソウルフル絵巻は、故人と交流の深かった彼ならではの立体的なトリビュートだと思う。