美的センスとユーモアと知性が炸裂したマドンナの監督デビュー作!
ワンダーラスト
2008年/アメリカ 監督・脚本/マドンナ 撮影監督/ティム・モーリス・ジョーンズ 出演/ユージン・ハッツ、ホリー・ウェストン、ヴィッキー・マクルア、リチャードE・グウント、インダー・マノチャ他 1月17日より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷他全国公開(配給/ヘキサゴン・ピクチャーズ)
元旦那ガイ・リッチーのお株を奪ったことでも話題の、マドンナの初監督映画「ワンダーラスト」。これが演技と違って意外にも(?)イタいところがまったく見当たらない!
2007年に〈Live Earth〉のステージで彼女と共演していたジプシー・パンク・バンド=ゴーゴル・ボルデロのヴォーカリスト、ユージン・ハッツを主役に立てた、ちょっぴり奇妙な人々と音楽とダンスとセックスとウィットと文学とが入り交じる、キュートなインディー・フィルムに仕上がっている。自由奔放であっけらかんとした、SMセックスのマスター役でお金を稼ぐユージンの役柄は、いわばNYに出てきた頃のマドンナのスピリットそのもの。というか、彼女の初主演作で、ほとんど地で演じていた映画「マドンナのスーザンを探して」のヒロイン役を男版にしたと言ったほうが近いだろうか。彼とアパートをシェアする女の子ふたりも、そういう意味ではマドンナ自身を思わせる横顔がチラホラ。ひとりはバレエ・ダンサー志望だが、ストリップ・クラブでポール・ダンスをしていたり、薬局で働くもうひとりはアフリカに行って子供たちを救うことを夢見ていたり。このあたり、ちょっと自虐的なパロディーでもあるのだけれど、実生活における彼女のアフリカ救済活動を美化するどころか、懐疑的な視点で描いているところが、彼女の監督/脚本家としての開き直りと度胸とを感じさせる。
音楽ファンには、ユージン率いるゴーゴル・ボルデロのパフォーマンス・シーンもあるし、バルカン・ビート・ボックスとのプロジェクト=J.U.F.による挿入曲など聴きどころも満載だ。ストリップ・クラブのシーンでは、マドンナの“Erotica”がバックに流れていたと思ったら、いきなりブリトニー・スピアーズの“...Baby One More Time”へと切り替わって学生服姿のストリッパーが踊り出すなど、ユーモアも抜群。ロンドンを舞台に現代社会の抑圧に押し潰されそうになりながらも懸命に生きる多様な人種、職業、階層の人々が描かれている点でも、最近のマドンナからはあまり窺えなかったハングリー精神が見え隠れする。旦那と別れてNYへ戻る前に、彼女はロンドン生活で感じたことを撮っておきたかったのかも……と書けば、まるでマドンナ臭ムンムンであるかのように思われるかもしれないが、もちろん彼女と切り離したところでもたっぷり楽しめる作品だ。
▼関連盤を紹介。
DVD「マドンナのスーザンを探して」(20世紀フォックス)