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第99回 ─ 凛として時雨 @ 横浜BLITZ 2008年12月20日(土)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2008/12/21   06:00
更新
2008/12/23   12:53
テキスト
文/土田 真弓

 10月28日(火)に〈P-Rhythm Autumn〉ツアーをスタートさせ、先日、約2か月ぶりに東京・赤坂BLITZへと凱旋した凛として時雨。全国23箇所を巡り、バンド史上最長となった同ツアーも12月20日(土)の横浜BLITZ公演をもってファイナルを迎えた。盛り上がること必至の定番ナンバーに加え、新たな側面を打ち出した新曲も披露されたこの日の模様を、bounce.comでは速報でレポートいたします!!

  10月28日に〈P-Rhythm Autumn〉ツアーをスタートさせ、先日、約2か月ぶりに東京・赤坂BLITZへと凱旋した凛として時雨。全国23箇所を巡り、バンド史上最長となった同ツアーが、12月20日の横浜BLITZ公演をもってファイナルを迎えた。

 満員の場内に入ると、ドラムスのピエール中野が〈棒読み感〉丸出しで開演にあたっての注意事項を生アナウンス中。早くもお馴染みのコール&レスポンス「ヴァ~イブス!」や下ネタ・トークが飛び出すなど、フロアには既に、そこはかとない一体感が……。


Photo by susie

  金属質な定番SEが鳴り響くと、条件反射のように観客はステージ前方へと殺到。太い歓声が飛び交うなか、ギター/ヴォーカルのTK、ピエール中野、ベース/ヴォーカルの345の順でメンバーが現れた。

 冒頭は“i not crazy am you are”。グルーヴィーなリズムと三人揃ったキメのフレーズが交互に繰り出されるなか、浮遊するギターのディレイを経て突入したサビでは、TKが獰猛に絶叫。観客も怒号で応え、ダイヴァーたちは人波の上に次々と飛び込んでゆく。その狂乱を引き継いだのは、“Telecastic fake show”。高速でテンポ・チェンジを繰り返しながらも恐ろしくキャッチーなこの曲でフロアに激震を引き起こしたかと思えば、続く“Knife vacation”では、攻撃性を剥き出しにしたリズム隊とメランコリックなギターの狭間に、TKと345による幻想的なハーモニーをふわりと浮かべてみせる。

  粛々としたチューニング・タイムを挟んだ後は、しなやかで強い345のヴォーカルをフィーチャーした“Sadistic Summer”、ヒステリックなギター・リフが唸りを上げる“想像のSecurity”、TKによる超絶早弾きに圧倒される“COOL J”と、オフェンシヴに3曲を連打。それに続いたのは、ピエールいわく「ツアー中にうっかり作った」という新曲だ。基盤となっているのは、ヴォーカリスト二人による掛け合いと、ギターのアルペジオ。だがそこに〈ゆらゆらとたなびく345の声〉〈TKの咆哮〉〈ゴリゴリに歪んだベース〉〈テッキーなギター・フレーズ〉〈ブラストビートを刻むドラム〉などが目まぐるしく挿入されるという、彼ら史上1、2を争うのではないかと思われるプログレッシヴ・チューンである。(筆者の勝手な予想ではあるが)彼らの作曲法のうちのひとつ、カット&エディットの真髄が遺憾なく発揮されている。

  「ありがとう」というTKの穏やかなひと言を無に帰するように畳み掛けられたのは、絶え間なく降り注ぐ高速アルペジオが狂騒グルーヴを巻き起こす“DISCO FLIGHT”。さらに“ラストダンスレボリューション”では暴力的にうねる轟音と煌びやかに回転するミラーボールが相乗効果を成し、会場内をカオティックなダンス・フロアへと変貌させる。観客のヴォルテージは、とことんまで上昇。そこで彼らは、再び新曲を投入する。

  まずは、12月24日にリリースされるメジャー・デビュー・シングル“moment A rhythm”から。アンビエントに揺らめくギターと、独白にも似たTKのヴォーカル。エフェクトが施されたドラムと、アンニュイに漂うベース。そしてステージ背後に投影された映像のなかでは、色とりどりの光を爆発させながら自転する球体が現れては消えてゆく。深いエコーが幾重にも重なり合い、溶け合い、〈音〉が輪郭をなくしては取り戻す――そんなセンシティヴなサウンドから一転、軋むギターがエモーショナルに咆哮するクライマックスでは燃え上がる太陽のような球体が、再びアンビエントに収束するラストでは流れる雲のなかに吸い込まれてゆく光の球体が映し出され、〈視覚と聴覚の双方で楽曲を表現する〉というこの曲のテーマを、この日の彼らは音源とは違う形で魅せていた。

  もう一方の新曲は、椅子に腰掛けたTKによるアコースティック・ギターが主役。そのせいか、疾走するリフの隙間から刹那的なメランコリーが滲み出ている。フレーズ自体はかなりアグレッシヴで、かつ展開もプログレッシヴであったりするのだが、アコギを中心に据えるとこんなにも印象が違うのか、と驚嘆。予想外のスパニッシュなアプローチに意表をつかれつつ、じっと耳を傾けていると、時折ハウス風のイーヴン・キックが顔を覗かせたりも……。この昂揚感のコントロールの仕方は、ロック的と言うよりは、もしかしたら生音主体のオーガニック&エモーショナルなクラブ・ミュージック(例えばHYDEOUTあたりの)に通じるものがあるかもしれない。

  彼らにしてはしっとり目のナンバーを立て続けた後は、揺り戻しのように“鮮やかな殺人”“テレキャスターの真実”といったライヴの定番ナンバーを投下。そして、ここでいよいよ(?)ワンマン・ライヴの醍醐味とも言える(!?)〈ピエール中野オン・ステージ〉の時間が!

 開演前に続いて「ヴァ~イブス!」で始まったコール&レスポンスは、本人も若干失笑気味のダジャレをいくつか交えた挙句、しまいには会場全体で「アンルイス」コールを繰り返すという謎の展開。さらには観客に拍手と合いの手を求めた上で、アンルイス“六本木心中”やTRFの“EZ DO DANCE”、Perfumeの“チョコレイト・ディスコ”、B'Zの“ultra soul”を熱唱……。そんなフリーダム過ぎるMC(?)も、TKへのお詫びで締め。何でも特設サイト掲載用としてニュー・シングルのアゴしゃくれ歌唱を収録した際、30万円もするマイクを使用していたらしい。そして、ステージはいよいよラストスパートへと走り出す。


Photo by susie

  “nakano kill you”“感覚UFO”とライヴの打ち上がり定番が連発された終盤、そのままラストまで突っ走るのかと思いきや、手前で三人それぞれによるMCコーナーが。「今回のツアーは歌詞をいっぱい間違えましたが、各所でオリジナル・アレンジを施しながら(笑)、今日に至りました」とTKが笑いをとった後には、345が来年5月からスタートするツアーの開催を発表。観客が沸き上がるなか、最後の最後でフロアにもたらされた楽曲は“傍観”だ。不定形に揺れるギターのディレイが、曲中に潜むセンチメンタリズムを増幅させる。絶望を深い海底へと沈めてゆくような重たい音像。そこから三人は徐々に自らのカタルシスを解放してゆき、激情を攻撃的かつ職人的なプレイヤヴィリティーへと転換。三者三様の音塊が無軌道に拡散し、会場全体を覆い尽くしたところでステージは終了した。

 個人的には、“moment A rhythm”を生でどう表現するのかに大きな興味を持って臨んだこの日のライヴ。その巧みなステージ構成は先に述べたとおりだが、加えて嬉しいサプライズ=名もなき新曲2曲も、アーティストとしてのファイター気質がひしひしと感じられる内容の濃いものであった(これも上述のとおり)。これまでは、新作を発表するたびに確固たる新機軸を打ち立ててきた凛として時雨。そのジンクスはおそらく、次作でもそのまま引き継がれることになるだろう。

凛として時雨 ONE-MAN TOUR 2008 “P-rhythm Autumn”-TOUR FINAL-
セットリスト

01. i not crazy am you are
02. Telecastic fake show
03. Knife vacation
04. Sadistic Summer
05. 想像のSecurity
06. COOL J
07. 新曲1
08. DISCO FLIGHT
09. ラストダンスレボリューション
10. moment A rhythm
11. 新曲2
12. 鮮やかな殺人
13. テレキャスターの真実
14. nakano kill you
15. 感覚UFO
16. 傍観

▼凛として時雨の作品を紹介

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・9mm Parabellum Bullet × 凛として時雨 @赤坂BLITZ 2008年7月1日(火)(bounce.com ライヴ・レポート/2008年7月10日掲載)
・凛として時雨(bounce.com インタヴュー/2008年4月24日掲載)
・凛として時雨(インタヴュー/bounce誌「290号」より転載)