日常の感傷を歌に込め、〈ギターと私〉がハイウェイを駆け抜ける

才人シオザワヨウイチによるソロ・ユニットがthe guitar plus meだ。卓越したテクニックで爪弾かれる、異様なほどの美しさと繊細さを湛えたアコースティック・ギターの旋律、囁きのように柔らかな英語詞を紡いでいく叙情的なヴォーカル――カントリーからジャズ、クラシックにAOR、ブルース、エレクトロニカまでを内包したサウンドは多彩なグラデーションを描きつつも、シオザワの歌声とギターがそこに静謐な統一感を与え、淡い煌めきに満ちた独自の色調を持つ楽曲へと昇華させている。
1年2か月ぶりとなるニュー・アルバム『HIGHWAY』は、その特異なサウンドもさることながら、何よりも音の向こう側に立ち現れる独特の世界観が素晴らしい。本作は荒野を走るハイウェイの歌“highway through desert”で幕を開ける。ところがそれ以降の曲に登場するのは、サッカーの試合日に休日出勤することになったため、上司を射殺する妄想を描く会社員や、憂鬱な学校へと向かうバスの中で笑みをなくした生徒、明日のことも見えないインチキ占い師……など。退屈な日常に埋もれていく人々の緩やかな感傷を紡いだような歌の数々は、思いのほかシニカルだ。けれど宙に浮かんだ彼らの溜息は、美しいギターの調べによって丹念に拾い上げられ、彼らの住む町を走るハイウェイのその先へと運ばれて優しく霧散していく。まるで一編のロード・ムーヴィーならぬ〈ロードサイド・ムーヴィー〉を観るような、唯一無二のサバーバン・ミュージックだ 。
▼the guitar plus meの作品を紹介。