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第446回 ─ Alton Ellis

連載
NEW OPUSコラム
公開
2008/12/04   07:00
更新
2008/12/04   18:33
ソース
『bounce』 305号(2008/11/25)
テキスト
文/鈴木 智彦

その温かいヴォーカルは、いつだってみんなの心のなかに……


  〈Mr. Soul Of Jamaica〉ことアルトン・エリスが今年10月、ジャマイカから移り住んだ永住先のロンドンで息を引き取った。享年70歳。若くして亡くなってしまう例も少なくないジャマイカのポピュラー音楽家にあって、十分に生き、そして十分に音楽人生をまっとうした数少ない人と言えるだろう。ストレートな歌詞で政治的/社会的なメッセージを声高に訴えるスタイルは取らなかった彼だが、その歌声の芯の部分から発せられる熱いエモーションには、ジャマイカ黒人としてのプライドや、スラム街に暮らす同胞たちを大きく包み込むような、人間としての温かみという成分がたっぷり含まれており、それこそがアルトンの作る音楽を特別なものにしていた。

 成功に相応しい報酬を得られない歪んだジャマイカの音楽業界のシステムと決別するべく、海外に活動の拠点を移した70年代以降は、直接的にジャマイカのレゲエ・シーンと関わることは少なかった。しかし、アルトンのスタイルや精神性をレゲエという音のなかで継承していった後輩シンガーが数多く存在する(グレゴリー・アイザックスやシュガー・マイノットら)ことも忘れてはならないだろう。このたび登場した2枚の作品──フランスのバンドをバックに従えた2003年のライヴ音源『Live With Aspo』と、60年代に吹き込まれたレア音源集『Soul Train Is Coming』──などを聴きながら、不世出の大シンガーの偉大さを偲びたい。ありがとう、アルトン!