
おじいがやってくるというので、民宿のなかが少し沸き立っている。おじいは笛作りの名人であり、三線の名手。この小浜島では知らぬ者はいない。宿の従業員たちは、八重泉という泡盛を用意して、座を整えはじめた。
八時になり、おじいが勝手口をあけて宿に入ってきた。大きな耳たぶに、ころころ丸い瞳。食卓に集まっていた宿泊客たちは、おじいの後について客間に入場。
まずは、女性従業員Mさんが、座びらきのために三線を手にとる。
「だれかやらないとはじまらんからねー」
滋賀からやってきた彼女は、アイルランドと小浜が好きで、フィドルも弾くという。たどたどしくも愛情のこもった三線と唄。ふわっと座がなごんだ。
カンパーイ! つぎは?
「じゃあ、わたしがいってみしょか!」
ベロタクシーの運転手が名乗りをあげる。毎週石垣に通って、小学校で踊りを教えている19歳。
「メジャーなやつをやりましょかね。安里屋ユンタをやりましょう」
サー安里屋ぬー クヤマによー サアユイユイ!
拍手、拍手。
「つぎは笛を吹きますよー」
カンパーイ!
ここで自分の出番。二階のギターをとって客間にもどってくると、旅館のお母さんやスポーツ整体師の女性が、プロのわたし(!?)の唄を聴きにドヤドヤと出てくる。
「花茶という曲をやります」
ひとりの花茶はにがくー お湯をさしてはさますー
温かい拍手。
「みみぐすい(耳の薬)やねー」とおじい。
一息ついて、おじいが三線かしなさいというしぐさをする。唄いはじめたのは、「安里屋ユンタ」のもっとも古い歌詞のヴァージョン。続いて「さらばラバウル」の島唄風替え歌、「ひめゆり」などなど。
コンパイ・セグンドという95歳で亡くなるまで色気たっぷりのキューバのシンガーがいたけれど、小浜のおじいもまったく同等。唄いながら、目の前に居る女性に電話番号を訊いたり、かみさんの若い頃に似ているなーと口説いたり。
さあ、明日から三日間の祭りがはじまる。
祭りを待ちかまえている島。
やもりが一匹、自動販売機のディスプレイのなか。
PROFILE
青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famo-usで活動し、伊藤ゴローと組んだTAKU & GOROで『RADIO INDIGO』(commmons)を発表したばかり(→P87)。映画「eatrip~食の記憶~」のサントラも制作中。