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第430回 ─ Jazzanova

連載
NEW OPUSコラム
公開
2008/11/13   19:00
ソース
『bounce』 304号(2008/10/25)
テキスト
文/若杉 実

新たな光で未来を照らすソウル・アルバムが誕生


 〈フューチャー・ジャズの先駆者〉――ぼくらが知っているジャザノヴァは、もうこの新作『Of All The Things』にはいない。ここにあるのは、音楽とのヒューマンな関係が紡ぐソウル・ミュージックの担い手としての新生ジャザノヴァだ。

「過去との対話なんだ」と、中心人物のアレックス(アレキサンダー・バーク)は6年ぶりとなるセカンド・アルバムについて語る。未来を見据えたジャズだなんて歯が浮くじゃないか、といった表情を浮かべながらメンバーのステファン・ライゼリンクがそれに続ける。

「シーフやクララ・ヒルをプロデュースしたのが転機だった。彼らをとおして〈歌の力〉を痛感したし、それを支える演奏家の美技にぼくらは酔いしれてしまったんだ」。

 全体を染める褐色の世界には、いにしえのモータウン・サウンドへの憧憬が色濃く滲んでいる。だがジャザノヴァたちは、こうしたソウルに取り組む理由を、本質的な姿勢のもとで冷静に導き出したというわけだ。ホセ・ジェイムズやベン・ウェストビーチといった同世代シンガーたちに混じってクレジットされるリオン・ウェアの名前を発見したとき、ぼくの喉元に熱い何かが込み上げてきたのはそのためなのかもしれない。同時にこのことは、4ヒーローが近作『Play With The Changes』のなかでラリー・ミゼルを起用した背景と似ているような気もした。

「4ヒーローは同胞だと思ってる。他の国にもぼくらと同じ考えを持った人間がいることに励まされるよ」(アレックス)。

 ITの隆盛と引き替えに世界がどんどん傷付きやすくなってしまった現代、音楽への意識変化も精神的な方向へと加速してはいないだろうか。そう思えるほどに、彼らの意志はピュアで根源的なのだ。

「〈10年前にこんなのがあったね〉だけの音楽なんて作りたくない。愛情を持てる作品が重要だと感じているんだ」(ステファン)。

 だからぼくらも彼らのことを忘れないのだ。6年先でも10年先でもいい、次のジャザノヴァまで『Of All The Things』を丹念に味わいたい。この一枚にはそれだけの価値がある。

▼『Of All The Things』に参加したアーティストの作品を一部紹介。