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第96回 ─ RADIOHEAD @ 東京国際フォーラム ホールA 2008年10月8日(水)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2008/10/09   18:00
更新
2008/10/09   19:14
テキスト
文/小林 祥晴

 世界中が認めるビッグ・バンドでありながら、取り巻く環境に惑わされることなく、みずからの審美眼のみを頼りに粛々と前進し続けるレディオヘッド。最新オリジナル・アルバム『In Rainbows』を引っ提げて行われた待望の来日ツアーも、昨日の東京最終公演をもって終了しました。今回のワールド・ツアーのファイナルでもあった当日のパフォーマンスを、bounce.comでは速報でレポートいたします!!

  今回の東京公演最終日、それはすなわち『In Rainbows』の世界ツアー最終日でもある。長いツアーを経たバンドの演奏は熟しきっており、最高の状態を味わうことが出来た。

 場内が暗転すると、熱狂的な歓声に包まれてメンバーが登場。まったく気取ったところのない5人の立ち姿は、彼らが世界有数のビッグ・バンドであるという事実を忘れさせるくらいだ。一曲目は『In Rainbows』と同じく“15 Steps”。ダブ・ステップを意識したような変則ビートにも関わらず、客席からは大きな手拍子が当然のように沸き起こる。そして、そんな観客の熱気に応えるかのように、バンドの演奏も最初から絶妙に心地よいグルーヴを醸し出していた。

  続いては、なんと“Airbag”“Just”という初期の名曲を連発する意表を突いた展開。当然これで盛り上がらないわけがない。早くも場内は騒然である。しかし、このように昔の曲をやると違いがよく分かるのだが、今のレディオヘッドが出す音はとても暖かい。『The Bends』から『Hail To The Thief』あたりまでに顕著だった、触れると切れそうなほど研ぎ澄まされた鋭いアンサンブルではなく、聴く人を優しく包み込むような心地よさがある。これは最新作を聴いたときにも感じたことだが、彼らの生み出すグルーヴがここ数年で確実に変わりつつあることを、この日は何度も実感させられた。

  その後は新作からの曲とそれ以前の曲をほぼ交互に演奏する展開だが、その間も心地よい空気がずっと会場を包み続ける。トム・ヨークも客席に向けて手を振ったり、メンバー同士でおどけてみせたり、適度にリラックスした様子。何か憑き物でも落ちたかのような晴れやかさが、いまの彼らにはあるようだ。そんな風に思っていると、『The Bends』の隠れた名曲“Bullet Proof..I Wish I Was”を演奏するという、これまた予想もしなかった展開。今回の日本ツアーでは毎日何かしらサプライズの選曲があるようだが、この日一番のものはこれだろう。決して演奏はこなれているわけではなかったが、だからこそ、たまにしかやらないという貴重さが伝わってきて、ファンとしては嬉しかったはずだ。

  本編最後は『In Rainbows』でも屈指の名曲“Nude”と“Bodysnatchers”で締める。だが、これはまだ折り返し地点のようなもの。二度に渡るアンコールでは計8曲も演奏し、本編に負けない濃密さを見せつけた。鉄壁のバンド・アンサンブルの魅力を痛感させる“Paranoid Android”。折り重なるフロア・タムの音色が雄大なグルーヴを創出する“There There”。そして、最後は『Pablo Honey』のラストを飾っていた“Blow Out”。まさかこのタイミングでデビュー作からのナンバーが聴けるとは思わなかった。長年彼らを支え続けてきたファンに対する、あまりにも粋なプレゼントである。


写真/久保憲司

  レディオヘッドは、やはり特別なバンドだ。既にキャリアは15年以上。今や彼らもヴェテランのスタジアム・バンドの仲間入りを果たしつつあるが、その立ち姿はいい意味で決して大物バンドのそれではない。大会場で常に数万人を相手にしなければならないバンドは、どうしても音が大味になったり、趣向を凝らしたエンタテインメント性に走ったりするのは避けられないもの。それはローリング・ストーンズ、U2、オアシスなどが歩んだ道を振り返ればあきらかだ。しかし、レディオヘッドは肥大化したサウンドやライヴに向かっていくどころか、いまは以前よりストリップ・ダウンさせたサウンドへと変化している。しかも、それが原点回帰とかいった類のものではなく、以前とは違う新たなバンド・グルーヴが、そこには確かに宿っているのである。バンドとして前進し続け、大観衆の魔力に我を失わず、しかもリスナーへの求心力も損なわない。そんなキャリアの積み方が出来ているバンドが他にいるだろうか。音楽的な革新性云々といった問題ではなく、ロック・バンドの一つの在り方として、今のレディオヘッドは間違いなく理想的な存在である。

RADIOHEAD @ 東京国際フォーラム ホールA 2008年10月8日(水) セットリスト

1. 15 Step
2. Airbag
3. Just
4. All I Need
5. Kid A
6. Reckner
7. Talk Show Host
8. In Limbo
10. Aperggi
11. The Gloaming
12. Wolf At The Door
13. Faust Arp
14. Bullet Proof..I Wish I Was
15. Jigsaw Falling Into Place
16. Optimistic
17. Nude
18. Bodysnatchers

―アンコール―
19. You & Whose Army?
20. Videotape
21. Paranoid Android
22. Dollars + Cents
23. Everything In Its Right Place

―アンコール 2―
24. Cymbal Rush
25. There There
26. Blow Out

▼レディオヘッドの作品を紹介

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・RADIOHEAD(インタヴュー/「bounce」誌 294号より転載)