今月リリースのナイス盤は、インタヴューをお届けしたTHE VERVE、sgt.、LOVE LOVE LOVE以外にもわんさかありますよ!……というわけで、月末固定の新連載! 編集部によるこの1か月のオススメ盤〈9月編〉!!

フェス・シーズンを終え、いくぶん疲れ気味の身体を優しく揉み解してくれたカイロプラクティック盤たち (Selected by 澤田)
LATIN QUARTER 『LOST』
煌びやかでねちっこいアーバン・ゲットー・ミュージックを横浜アンダーグラウンドから発信する集団、PAN PACIFIC PLAYA。その中軸を担うトラック・メイカーの4年ぶりとなるソロ作です。前作『Light House』は猥雑でディスコティックなハウス・アルバムでしたが、今回は、サンプリング主体のざっくりしたループを31曲も(!)詰め込んだ一枚。同趣向で作られたJ・ディラの名作『Donuts』に近い感触もあるものの、こちらの方が、よりメロウでゆるゆる。そこが素晴らしい。日常生活にぴったり馴染む、湯加減良好なトラック集となっております。
鈴木亜美 “can't stop the DISCO”
我らがあみーごのデビュー10周年シングル第2弾は、前作に引き続き中田ヤスタカのプロデュース。基本的には、お得意のキラキラしたダンス・ポップ路線なんですが、ミュンヘン・サウンド~初期ハイエナジー風のデケデケしたシンセ・ベースがなんとも強烈、かつ衝撃的な仕上がり。ここまでディスコティックで淫靡なタッチというのは、亜美嬢にとっても中田氏にとっても、何気に新機軸なのではないでしょうか。これまでの中田ワークスに馴染みの薄かった方にも是非おすすめしたい好シングルです。しかし、あみーごの若干低い声は、オート・チューン加工にばっちりハマりますなあ。
そのほかのナイス盤をずらりとご紹介!!
ピアノ&ヴォーカルの歌ものデュオ、石橋英子×アチコのセカンド・アルバム『サマードレス』は、豊田道倫や柚木隆一郎らが参加しているほか、千住宗臣(ウリチパン郡)、竹村延和、蔦木俊二(突然段ボール)の三者によるリミックスも収録した意欲作。現代音楽~アヴァン・ポップを巧みに咀嚼した、スケールの大きな歌世界を作り上げてます。北欧のディスコ・ダブ貴公子、リンドストロムの初のオリジナル・アルバム『Where You Go I Go Too』は、30分近い表題曲を含む長尺トラックのみの全3曲。イタロ・ディスコやプログレ、サイケ・ロックといったサウンドが溶け合い、開放的な空気を孕んだロング・トリップを展開しており、バレアリックなダンス・ミュージックの決定打と言っていい完成度。聴き心地の良さで群を抜いていたのが、名門レーベル・ワープを代表する男、ナイトメアズ・オン・ワックスの新作『Thought So...』。相変わらずスモーキーで快楽原則に忠実なビートを繰り出しており、ズブズブ……とはまったら抜けられない中毒性にご注意を。そして、かのMFドゥームも在籍していた伝説的ヒップホップ・グループ、KMDのお蔵入り作『Black Bastards』が堂々の復刻リリース。ニュースクール勢の作品群のなかでも、最も成熟した音が詰まった傑作でしょう。2分足らずの楽曲“Plumskinzz(Oh No I Don't Believe It!)”のエレガントっぷりにうっとり。リピートしまくってます。
関西アンダーグラウンド・シーンからの殴り込みにノックアウト! 轟音とか静謐とかのなかで祭り囃子が鳴り響いた6枚 (Selected by 土田)
夢中夢 『イリヤ -ilya-』
轟音ギターやブラスト・ビート、デス声による嵐のような混沌のなか、ミニマルなピアノと清廉なヴァイオリンを従えて美声を発するハチスノイトは、聴き手を幻想的な楽園へと誘う女神か、それとも暗黒世界へと導く堕天使か。あふりらんぽやミドリを輩出した関西の品質保証レーベル、GYUUNE CASSETTEが放つ新たな問題作は、聖書や史書などにインスパイアされたという哲学的な詩世界をクラシックやヘヴィー・メタル、ミニマル・ミュージックが交錯するドラマティックかつ深遠なサウンドで見事に表現した、実にオルタナティヴな逸品。ストリングス・アレンジにworld's end girlfriendが参加していたり、凛として時雨のTKが推薦コメントを寄せていたりするけれど、静と動の狭間に現出するダーク・ファンタジアは、上記2アーティストの世界観にも通じるものが。Xなどのファンにもぜひ聴いてほしい一枚です。
neco眠る 『ENGAWA BOYS PENTATONIC PUNK』
ヘヴィーなギター・リフに続いて響いてきたのは、純日本的なお囃子ビートと鍵盤ハーモニカの脱臼メロディー。ライヴ会場で“UMMA”を初めて耳にしたときの衝撃は忘れられません! 関西発、ジャパニーズDNA濃縮還元仕様のダンス・ロック・バンドによる初作がいよいよ登場。〈関西ゼロ世代〉以降を目にした彼らが辿り着いたのは、全日本人の心の音楽=盆踊りサウンド。メタル、ハードコア、ダブ、エキゾ、スカ、レゲエ、サンバ……と多様な音楽性を採り込みながらも、根底にあるのは〈やぐらと提灯〉がよく似合う、あのリズム&フレーズなのです。加えて、磯野家のお茶の間を彷彿とさせるツッ込みどころ満載のユル~い空気も漂わせているとなれば(まんま“ISONO HOUSE”なんて楽曲もあり)、島国ニッポンの住人としては降参するしかない! 老若男女、誰にでもオススメできる奇跡盤です!!
そのほかのナイス盤をずらりとご紹介!!
まずはカナダ在住のショウハン・リームによるソロ・プロジェクト、アイ・アム・ロボット・アンド・プラウドの新作『Uphill City』。キラッキラの電子音が楽しげに踊ったり、軽快に弾んだり、ぷかぷか浮いたり、流線型を描いたりしている本作を聴けば、意識はどこかの丘の上にある夢の街へひとっ飛び! 10月にはバンド・セットでの来日公演も控えていて楽しみな限りです。そんな彼と共にタワレコ渋谷店のインストア・ライヴへ出演するAkira Kosemuraのセカンド・アルバム『Tiny Musical』は、彼が主宰する良質エレクトロニカ・レーベル=Scholeの第六弾作品。アコースティック・ギターやピアノ、ピアニカといった生楽器のミニマルなフレーズに電子音がふんわりと溶け込む本作は、明度の高い水や空気のようにオーガニックかつノスタルジックな趣。どこまでも柔らかなタッチが心地良くて、リピート率の高い一枚です。打って変わってモグワイの6作目『The Hawk Is Howling』は、ポスト・ロック・シーンを牽引する(つもりは毛頭ないのだろうけど)存在として納得のスケール感。暴力的な轟音がここまで獰猛に鳴り、深い静寂がここまで美しく研ぎ澄まされている作品は、なかなか見当たらないわけで……〈グラスゴーの至宝〉という彼らに対する賛辞は、まったくもって正しいと思う次第であります。また、ここ日本における孤高の才能、向井秀徳率いるZAZEN BOYSもデイヴ・フリッドマンをプロデューサーに迎えた新作『ZAZEN BOYS 4』を発表。シンセサイザーを大々的にフィーチャーした本作は、ハウスやファンクを基盤とした前衛メトロポリタン・ミュージックに〈都会の夜のロマンと狂騒〉を投影させた意欲作。個人的には、楽曲から滲み出す孤独感がやたらとせつない“Asobi”“Sabaku”にグッときました。