武藤昭平による、〈憧れのアーティストたちと酒場でいっしょに酒を飲んだら?〉――という深夜の妄想話!
26時。さっきまでいたキース・リチャーズとウエノコウジ、彼らとすれ違うように現れたジョン・レノンとエリック・クラプトン、そしてキング・オブ・ロックンロール=チャック・ベリー、その全員が帰ってしまったいま、嵐が過ぎ去ったあとの静けさのような、そんな平穏に包まれた〈Bar YAMAGA〉で俺はひとりで静かに飲んでいる。ミュージシャンの知り合いがいない一般の客のざわめきのなかで、俺はひとりで平穏に飲んでいる。気がついてみればカウンターは俺ひとりになっていた。たまに泥酔した知らない客が店に入って来ようとすると、この店の名物おばちゃん店員であるティナ・ターナーがここぞとばかりに出てきて、泥酔客に豪快に言う。「ああ、いま客席が満席だから。入れないから。ゴメンねぇ」。すると泥酔客もティナに返す。「あれ? カウンター、こんなに空いてんだろ? 俺はひとりだから座らせろよ」「ダメダメ! ここは全部予約で埋まってんだからダメだよ。さぁ帰んな!」。強い口調でティナはそう言うと、見事に泥酔客を帰してしまった。迫力満点のティナがちょっと怖くなった俺は、あまり目を合わさないように細々と飲むことにした。
そんな時、この平穏な空気を壊すかのように、酔っ払った2人組の男がゲラゲラ笑いながら店に入って来る。ふたたび店員ティナの目が光る。すると男のひとりがティナに声をかけた。「よう、ティナ! ちょっと友達を連れて来たんだ」。その男を確認したティナは少し呆れた顔をして俺に話かける。「ねぇ、ムトウ。あんたの隣りに2人いい? 酔っ払ってるけど」「ああ、どうぞ」。そう言った俺の隣りに座った男はザ・フーのドラマー=キース・ムーンと、そしてなんとジャズ・ドラマーの大御所ジーン・クルーパである。なぜかまだ笑っている2人。特にキース・ムーンに至っては笑いが止まらないようだ。そんなキースに話しかける俺。「お疲れ様です、キースさん。お久しぶりです」。するとキース「よお、ムトウじゃねぇか。こちらジーン・クルーパ」。そして俺「あっ、はじめまして。それにしても2人ともよく似てますね、顔。兄弟かと思いましたよ」。するとキースはまた笑い出して言った。「おい、ジーン。俺たちも似てんだってよ! ヒャッヒャッヒャッ」。
……武藤昭平、あくまでも妄想の話。
深夜の妄想盤
THE WHO 『Ultimate Collection』 Polydor/ユニバーサル
今年11月に行われる日本での初単独公演に先駆けて、SHM-CD仕様でリイシューされた2枚組のベスト盤。彼らの編集盤のなかでもまんべんなくキャリアを総括しているアルバムなので、ライヴの予習にもピッタリですね。ちなみに、キース・ムーンさんは右から2人目のお方。
GENE KRUPA 『Big Noise From Winnetka』 Verve(1959)
で、こちらがジーン・クルーパさん。確かにちょっと似てなくもない? このアルバムはワン・ホーン・クァルテットで挑んだ名ライヴ盤。ヒートアップしていく観客に応えるかのように、終盤にかけて大爆発するジーンさんのドラミングが胸にジ~ン(ベタ)。
PROFILE
武藤昭平
ジャズとパンクを融合させたオリジナルなサウンドで人気を博す伊達男音楽集団、勝手にしやがれのドラマー/ヴォーカリスト。レーベル移籍第1弾となる、オダギリ ジョー主演映画「たみおのしあわせ」のサントラ『ゼン・サマー・ケイム』(tearbridge)も好評リリース中。ニュー・アルバムの発表も控えているなか、9月28日(日)には埼玉・航空公園で行われる〈夏結びMUSIC FESTIVAL〉に出演が決定。その他の情報は〈www.katteni-shiyagare.com〉で!