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第34回 ─ 作曲パズル

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2008/09/04   00:00
更新
2008/09/04   18:37
ソース
『bounce』 302号(2008/8/25)
テキスト
文/青柳 拓次


  朝七時~十時頃。直感とのつながりを感じる時間帯。

 ピアノとギターがここにある。

 どちらかを手にとり、たわむれに音をだしてみる、無心に。ひとつのモチーフが湧きあがると、すぐさまレコーダーをまわしはじめる。そのまま、ひたすら音の断片を録音していく。

 この作業を三日ほど繰り返すと、アルバム一枚分位のモチーフがストックされる。

 このストックは数日寝かし、あらためて聴きなおしてみる。ここからが作曲パズルのはじまりだ。

 パズルの中心に置きたいフレーズをさがしはじめる。最も使われる可能性が高いのが、自分が弾いた気のしない、不思議な魅力のあるフレーズ。この断片こそ、直感的なひらめきによる神秘の宝石。

 楽器を弾きはじめるとつい弾いてしまう手癖のフレーズや、無意識に陥ってしまういつものコード進行は、一旦要素からはずしていく。  

 それから、フレーズの覚えやすさには拘りすぎないようにする。覚えやすさのなかに、単に慣れ親しんだ〈既存の曲〉の一部をみつけてしまうことが多いから。

 同時に、楽器構成と曲の進み方を考える。

 とりとめもなく発想するアレンジ。そこには必ず新たな挑戦や冒険がひそんでいる。ひるまず挑んでいくことが、レコーディングを愉しくさせる。

 いま手がけている食に関する映画のサウンドトラックを例にしてみよう。

 リズムはドラムセット全体を使わず、フロアタム限定にして、いくつかヴァリエーションを考えてみる。うまくいけば、カビのはえたありがちなドラムパターンから離れることができるかもしれない。それに食がテーマの映画なのだから、キッチンにある食器やクッキング用品でリズムを組んでみようか。叩いたり、こすったりして、新しいムードを生み出そう……。

 そうやって曲のフォルムがみえてくる。あとは直感と相談しながら実際の録音に入るのだ。

「記憶力のよい人は、あまり独創的ではない」という意見を聞いたとき、とっても頷けるものがあった。

 たくさんの記憶が溶けてねむる〈記憶の瓶〉は、自分自身もおどろいてしまう新しき発想が生まれる温床となっている。だから、忘れるという行為を肯定しよう。浮き世と自分に新鮮なアイデアを提案をするために。

PROFILE

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famo-usに参加する他、KAMA AINAとしても活動中。Double Famousの最新作『DOUBLE FAMOUS』も好評リリース中で、9月7日の〈SUNSET〉他イヴェントへも精力的に出演!