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第94回 ─ nhhmbase × 54-71 @ タワーレコード渋谷店 2008年8月22日(金)

第94回 ─ nhhmbase × 54-71 @ タワーレコード渋谷店 2008年8月22日(金)(2)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2008/08/28   18:00
更新
2008/08/28   18:35
テキスト
文/土田 真弓

  たった一音で世界が変わる――と言うと大袈裟だが、一曲目“波紋クロス”の冒頭ワン・フレーズによって、真っ暗な地下フロアが狂騒の渦へとあっけなく放り込まれたことは紛れもない事実だ。この抑えきれない昂揚感は何だ? たった4人が放つ音だ。だが、絶妙のタイミングで邂逅を繰り返す5パターンのリズムは奇妙なポップネスを持ってフロアを席巻し、居合わせた人々の意識をいとも簡単に我がものにしてゆく。

  ステージでの豹変ぶりがこれほどまでに甚だしいバンドも珍しい。舞台裏のnhhmbaseを取り巻いていたのは、いっそ「シャイ過ぎる!!」と叱り飛ばしたくなるほどのナード感……だったのだが、いま、目の前にいる彼らが放出しているのは、剥き出しのパンク・スピリット。メロディー上を逆ギレ気味に突っ走るハイトーン・ヴォイス、はにかんだ表情とは真逆の暴力性を標榜する極太のベースライン、自由奔放なようでいて周到に配置されているギター・リフ、すべてのパートが別のリズムを刻むという特異な音楽性を根幹でがっしりと支えるドラムス――〈変拍子で構築されたポップ・ミュージック〉という命題に挑む〈攻めの姿勢〉がまんま反映されたハイテンションのプレイは、観る者を熱狂させずにはおかない大きな起爆力を備えている。

  「こんなにいっぱい来てくださって、ありがとうございます。やっとアルバムをリリースしましたけど、いま頃なら皆さんも聴き慣れてきたぐらいかな、と(笑)。曲とかも、覚えてもらって……る……かな……(だんだん声が小さくなる)? ……すいません、変拍子で」(マモル)。

 ――アタマから4曲ノンストップで煽りまくった挙句のこのMC。胸倉を掴んだ後に丁重に謝るような佇まいも彼ららしい。

  54-71と同様に新作と同曲順で進行するのかと思いきや、終盤ではライヴでの定番曲“oint60”“PLネットワーク”“9/8”を怒涛の勢いで披露。フロアは当然のごとく、無秩序状態へ突入。

  「最後はタワーレコード特典の“Anarchy In The UK”を(特典CD-Rに収録)」――と、(スタッフに「著作権は大丈夫?」と確認しながら)シメとして繰り出されたのは、セックス・ピストルズの代表曲のカヴァー。汗と奇声と変拍子にまみれたステージは、大きな盛り上がりを見せて終演を迎えた。

 新作『波紋クロス』のリリース時に行ったインタヴューの際、ソングライターのマモルはこの作品を称して「ファッション性がまったくないパンク」と語っていたが、彼らのパフォーマンスを目の当たりにするたびに「なるほどなぁ」と思う。だがそれは、アグレッシヴなステージングや、毎回セットリストを用意しない、といった表層的な理由からではない。たとえば、変拍子というある種の飛び道具をベースに、聴き手を選ばないポップ・ミュージックを生み出そうという意識。たとえば、一度作り上げた音像を解体し、あるべき音だけに削ぎ落として再構築するという作曲方法。たとえば、完成された楽曲の世界観を状況に応じて変化させる(破壊する)という型破りなプレイ。

 nhhmbaseというバンドを構成するパーツのひとつひとつを手繰り寄せてみれば、ひどくアナーキーなミュージシャン・シップに辿り着くのではないか。そう思えてならないのは、果たして筆者だけだろうか?

nhhmbase タワーレコード渋谷店インストア・ライヴ セットリスト

1. 波紋クロス
2. ひだまりのうた
3. 無題
4. 蜻蛉日記
5. oint60
6. PLネットワーク
7. 9/8
8. Anarchy In The UK

▼nhhmbaseの作品

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