NEWS & COLUMN ニュース/記事

第33回 ─ 触れる

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2008/08/14   01:00
更新
2008/08/14   18:27
ソース
『bounce』 301号(2008/7/25)
テキスト
文/青柳 拓次


 画集で絵を観ることは、メガネをかけて絵をながめているのと似ている。

 アボリジニーの抽象画家、エミリー・ウングワレーの展覧会をあるく。

 入場する際、メガネをかけているのを忘れていた。しばらく絵の実物を観ている感じがしない。気づいてメガネをはずし、目が直接絵に触れると、途端に絵が飛び込んできた。

 故郷アルハルクラとの深いつながりを感じる。大きく描かれたヤムイモの踊るようなイメージ。彼女は土地の一部として絵を描いていたのだ。   

 展覧会は、死の直前に、三日間で描いた数枚の抽象画で締めくくられる。

 土地に触れ続けたエミリー。最後は、祖先の「生と死」を包む場所にとけていった。    

 女性の手に触れると、瞬時に相手の気持ちが伝わってくることがある。

 冷たい、暖かい、というような温度感のことではなく、手から立ち上る気の様子で感じるのだ。

 明るくおおらかな気を感じると、わたしは自然と相手のからだに手を触れたくなる。とくに、赤子から発されるような「濃密な命の霧」を感じとった時には。
 
 十年ほどまえ、ある女優さんの声が気になってしょうがなかった。

 裏返る寸前の高さをギリギリ保っているような声。

 テレビから彼女の声が聞こえてくると、その場で耳を塞ぎたくなるほどだった。

 それから彼女も年を重ね声質が変化し、以前のように気になることは無くなった。 
 
 音楽でも、耳との相性が悪いものは、いくら演奏がよくても聴けないものがある。それはとっても残念なことで、音さえ雰囲気が良ければな、とおもうのだけれど。

 音を聴くというのは、耳で触れること。

PROFILE

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famousに参加する他、KAMA AINAとしても活動。結成15周年を迎えたDouble Famousの新作『DOUBLE FAMOUS』と本連載のイラストを手掛ける民の著書「ライスビート たべてきこえるマクロビオティック」が好評リリース中。