
画集で絵を観ることは、メガネをかけて絵をながめているのと似ている。
アボリジニーの抽象画家、エミリー・ウングワレーの展覧会をあるく。
入場する際、メガネをかけているのを忘れていた。しばらく絵の実物を観ている感じがしない。気づいてメガネをはずし、目が直接絵に触れると、途端に絵が飛び込んできた。
故郷アルハルクラとの深いつながりを感じる。大きく描かれたヤムイモの踊るようなイメージ。彼女は土地の一部として絵を描いていたのだ。
展覧会は、死の直前に、三日間で描いた数枚の抽象画で締めくくられる。
土地に触れ続けたエミリー。最後は、祖先の「生と死」を包む場所にとけていった。
女性の手に触れると、瞬時に相手の気持ちが伝わってくることがある。
冷たい、暖かい、というような温度感のことではなく、手から立ち上る気の様子で感じるのだ。
明るくおおらかな気を感じると、わたしは自然と相手のからだに手を触れたくなる。とくに、赤子から発されるような「濃密な命の霧」を感じとった時には。
十年ほどまえ、ある女優さんの声が気になってしょうがなかった。
裏返る寸前の高さをギリギリ保っているような声。
テレビから彼女の声が聞こえてくると、その場で耳を塞ぎたくなるほどだった。
それから彼女も年を重ね声質が変化し、以前のように気になることは無くなった。
音楽でも、耳との相性が悪いものは、いくら演奏がよくても聴けないものがある。それはとっても残念なことで、音さえ雰囲気が良ければな、とおもうのだけれど。
音を聴くというのは、耳で触れること。
PROFILE
青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famousに参加する他、KAMA AINAとしても活動。結成15周年を迎えたDouble Famousの新作『DOUBLE FAMOUS』と本連載のイラストを手掛ける民の著書「ライスビート たべてきこえるマクロビオティック」が好評リリース中。