武藤昭平による、〈憧れのアーティストたちと酒場でいっしょに酒を飲んだら?〉――という深夜の妄想話!
25時。ホロ酔いのジョン・レノンはとてもヤンチャである。だが、チャック・ベリーの前では少ししっかりしている。すると店の名物店員のおばちゃん、ティナ・ターナーを指差してチャックが言う。「エプロンしてたから気付かなかったが、後ろから見るとティナのスカート短かすぎやしないか?」「ほんとだ。パンツ見えそうというよりは、もう見えてないか?」とジョン。「しかも店で働くにしては髪型も化粧も豪快ですねぇ」と俺。その時、われわれの視線に気付いたティナが「なにジロジロ見てんのよ。アタシに気があんの?」「いやいや」とチャックがトイレに席を立った。
すると外国人観光客のような風貌のおじさんが声を掛けてきた。「いまの人、チャック・ベリーだよね?」。生真面目な眼鏡にヒゲを生やしたその男性を見たジョンは、「エリック? エリックじゃないか」「よう、ジョン。久しぶりだな」。あまりに普通の格好すぎて気付かなかったが、エリック・クラプトンである。そしてトイレから戻って来たチャックも混ざり、4人で飲むことに。「チャック、またこういう格好で飛行機に乗って来たの? 目立つだろ」と言うエリックに、チャック「俺は着替えを持ち歩かん」。するとジョンが説明する。「会場に来たままの格好でステージをやって、そのままの格好で帰っていくヤツ。つまり着替えを持ってこないヤツのことを〈チャック・ベリーズ〉なんて言ってたな」「汗でビチョビチョになったりするんじゃないんすか?」という俺に、ジョンは「そんなのはいいんだよ。なんたって潔いだろ。それがロックンロールよ。あ、そういえばチャック、俺ん家に本当に泊まるの? 軽井沢だけど」「え、軽井沢は遠いよ。俺ん家に来なよ、チャック」とエリックが言う。チャックは「エリックのウチはどこだ?」「高円寺だよ。マンション買ったんだ」。チャックが俺に訊く。「どっちが近いんだ、ムトウ」「エリックさん家、高円寺なんだ。高円寺のほうが断然近いっすよ」「よし今夜はエリックのウチに泊まるか」「じゃあ俺もタクシー便乗するよ」とジョン、エリック、チャックは帰ることに。
帰りしな、ジョンがチャックに訊く。「チャック、なんで日本に来たの?」「来たかったからだ。意味はない」。するとジョンが俺に言う、「ムトウ、聞いたか? これがロックンロールだ!」「勉強になります」。
……武藤昭平、あくまでも妄想の話。
深夜の妄想盤
JOHN LENNON 『Rock 'N' Roll』 Apple/Capitol(1975)
ロックンロールに別の名前を与えるとすれば、それは〈チャック・ベリー〉だ──なんて名言を残しているジョンさん。このロックンロール/リズム&ブルースのカヴァー集でも、もちろんチャックさんの楽曲を披露。本当は今晩、軽井沢に来てほしかったんじゃないでしょうか。
ERIC CLAPTON 『Complete Clapton』 Reprise
かの有名なチャックさんの還暦コンサートでも、御大と灼熱のギター・ジャムを繰り広げていたエリックさん。クリーム時代から頻繁にチャック・ナンバーを演奏するなど、キャリアを通じて深いロックンロール愛をブチまけてきた彼の歩みは、このオールタイム・ベストでどうぞ。
PROFILE
武藤昭平
ジャズとパンクを融合させたオリジナルなサウンドで人気を博す伊達男音楽集団、勝手にしやがれのドラマー/ヴォーカリスト。レーベル移籍第1弾となる、オダギリ ジョー主演映画「たみおのしあわせ」のサントラ『ゼン・サマー・ケイム』(tearbridge)をリリースしたばかり。また、〈RISING SUN〉を筆頭に今夏もたくさんのライヴを行う傍ら、9月にはニュー・アルバムの発表も控えているとのこと。その他の詳しい最新情報は〈www.katteni-shiyagare.com〉で!