ご存知〈キング・オブ・メロウロック〉こと曽我部恵一のマンスリー連載! ご自身のお店〈City Country City〉でも素敵な〈手描きPOP〉を作っている曽我部氏が、タワーレコードのPOPを担当。独自のテーマでCD/DVD/書籍をチョイスし、その作品のPOP作りに挑みます。完成したPOPとセレクション・アイテムは、タワーレコード新宿店の〈曽我部コーナー〉にて展開……というWEB&店舗の連動企画! さて今月のセレクション・テーマは〈女性アーティスト〉です。
今回のテーマは、女性アーティスト作品。曽我部さんが愛してやまない〈女たち〉が作り上げた作品をご紹介していただきます!
曽我部「女性アーティストの作品をプロデュースするのが好きなんですよね。自分が女性の立場で歌うことはできないから、そこを擬似的に作り上げていくのが面白い。でも、普段は女性ヴォーカルものって、あまり聴かないかな。女性ヴォーカルものって、作品にすべてが出ちゃうから、聴いていて〈良いんだけどしんどいなあ〉って思っちゃうところがあって。楽に聴けるのはユーミンくらいかもしれない。ユーミンの場合は声も楽器的だし、〈女〉を演じてるところがあるから聴けるんだろうね。でもたまに中森明菜とか、すごい情念系のものを、どうしようもなく聴きたくなっちゃうこともあるんだけど(笑)」。
荒井由実『COBALT HOUR』
曽我部「ユーミンでは結局、これが一番好きかなあ。この前の2枚(『ひこうき雲』『MISSLIM』)って、アーティスティック過ぎてあまり好きじゃない。これとか『14番目の月』とか、もっと言うと『SURF & SNOW』みたいなベストとか、コテコテにポップなのが好き。これに入ってる“卒業写真”も“ルージュの伝言”も、絶対にフィクションでしょう。サーファーや女子大生のおしゃれな恋愛の話がずっと続くっていう。そこが大好き。例えば、宇多田ヒカルもすごいと思うけど、ユーミンほど偽悪的じゃないんだよね。真面目だし、聴き手にも自分にも誠実でしょ? 小沢(健二)くんも『LIFE』でユーミンに近いところまで行ったと思うけど、あれも結局は善意に訴えかけてくるものなわけでさ。ユーミンには、全員だましてやろう、みたいな悪意があって、そこが良い。芸術のパワーを感じさせてくれる。彼女は、六本木キャンティとかアルファ・レコードみたいな芸能文化とつながっているし、要するに不良なんだよね。それも半端なくワルい。彼女のインタビュー本があるんだけど、それもすごいんで読んだほうがいいよ」。
THE CITY『Now That Everything's Been Said(夢語り)』
曽我部「シティとキャロル・キングも、僕のなかではユーミンに近いかな。声に情感をそこまで出さないというか。あくまで曲で世界を作っていく感じが好き。当時はまったく評価されなかったアルバムだけど、相当良いっすね。(キャロル・キングの)『Tapestry(つづれおり)』よりもこっちの方が好きかな。シティには未整理なままの良さがある。『つづれおり』はキャロル・キングの売りだけが出ちゃってる感じだけど、シティはまだ手探りでやっている感じがあって、デモ・テープっぽい。そこがかわいくて良いんだよね」。
Sinead O'conner『I Do Not Want What I Haven't Got』
曽我部「この人は情念系で、聴くのが面倒くさいタイプの人なんですけど、プリンスが作った“Nothing Compares 2 U”って曲が凄すぎる。チャカ・カーンの“I Feel For You”もそうだけど、プリンスって、とんでもない曲をサクッと人に書いちゃうんすよね。〈なに考えてるんだろう?〉って思うんだけど。“Nothing Compares 2 U”は〈15日と7時間が過ぎた〉って出だしで、失恋の歌だと思って聴いていくと、後半になって、実はお母さんが亡くなった歌だったっていうのがわかる。そういう詞のマジックもすごい。これはめちゃくちゃ売れた曲で、色んな国で1位になっている。ネリー・フーパーがプロデュースしていて、当時全盛だったグラウンド・ビートの名作ですね」。
THE SLITS『Cut』
曽我部「スリッツはいいですよね。このアルバムは、散らかった女の子の部屋みたいな感じかな。パンクとかレゲエとか色んなものが入っていて、すごくファッショナブル。男がロックをやるのとはちょっと違う。これが出てきたときって、UKではどういう風に受け止められてたんだろうっていうのが気になるな。俺、ポップ・グループはしんどくて全然聴けないんだけど、これは聴けるんだよね。かわいい感じがあるし。あとジャケもいいよねえ。ヌードで泥を塗ってるっていう」。
GAL COSTA『India』
曽我部「ガル・コスタは結構好きなんだよね。これはすごいファンキーなアルバム。ブラジルの女性ヴォーカルものって、あまり情念を込めて歌わないから、僕には聴きやすい。この人もおっぱい出すんだよねえ。ジャケは股間のアップでしょ。カエターノ(・ヴェローゾ)の同時期のアルバムにも、股間のアップのジャケ(『Araca Azul』)があるんだけど……当時のブラジルで股間に何かがあったのかなあ(笑)。ブラジルものだとボサノヴァとかもあるけど、こういうトロピカリアものの方が好きかな。ファンクとサイケが入り混じった、クールなブラジル音楽」。
LINDA PERHACS『Parallelograms』
曽我部「これはアシッド・フォークの超名盤すね。幽玄で透明感があって。これはコントロールされて作られたものじゃなくて、偶然出来上がってしまった、みたいなタイプのアルバムだと思うんだよね。だから、この人自身に才能があったのかはよくわかんないけど(笑)。女性ヴォーカルものって、こういうものが突然生まれることがあって、そこが恐ろしいところだと思う。彼女はいまも活動してるみたいすね」。