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第31回 ─ 海緑色のアナログ

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2008/06/12   22:00
ソース
『bounce』 299号(2008/5/25)
テキスト
文/青柳 拓次


  都内、ポテトスタジオ。

 「Big Heart」。ラウンジ・リザーズのプロモ・クリップを観る。

 舞台上、町中、プールサイド、海を見下ろせる丘の上で、メンバーたちは奇怪なダンスをしたり楽器を演奏している。独特ギタリストのマーク・リーボーやジャズ・パッセンジャーズのメンバーたち、リーダーであるジョン・ルーリーの弟イヴァンも在籍していた黄金色の頃。

 強く訴えかけてくるのは、撮影に使われた8ミリフィルムの力。人と物とが滲んで残像が追いかけっこをする、動く絵。

 いま、ハイビジョンのように鮮明に撮影することがフレッシュでも重要でもない時代、とわたしは受け止めている。

 再現性が低いこと、クリアに撮れていないこと、それこそが重要だとすらおもえる。

 もはや「だれでも綺麗な絵を簡単に撮ることができる」というのが常識になったいま、映像作家は何を撮影すればいいのかを考えるのは愉しい。

 映画界。

 デジタル・ヴィデオ・カメラで撮影し、コンピューター・ソフトで編集した作品を、最後にフィルムへコピーする手法が増えているようだ。ジャ・ジャンクーの新作「長江哀歌」はそうして完成された傑作のひとつ。

 音楽でも映像でも、最後にアナログ(テープ/フィルム)にコピーすることにより、奥行きや質感が変わる。

 わたしが最初にサウンドトラックを手がけた作品「タイムレスメロディ」の試写会で、もっとも印象に残ったのは質感の変化だった。デジタルで録音されたわたしの曲が、粒子が荒く、高いところの成分がくぐもった、より雰囲気のあるサウンドへと変わっていたのだった。

 CDもカセットに録音して聴くと、作品のもつ匂いや雰囲気が強調される。とくに古い音楽には効果がある。ふたたびマスタリングされカラーで色づけされた歴史的名盤をテープにおとすことによって、モノクロームの響きを取り戻すのだ。

PROFILE

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famousに参加する他、KAMA AINAとしても活動。本名名義での初のアルバム『たであい』も好評リリース中。Double Famousの結成15周年記念盤を7月にリリースする予定。