今月のスナップ:「最近、適当すぎたんで今回はおしゃれしてきました」という上野氏と、〈snea〉のTシャツがナイスなKAZZ-K氏
KAZZ-K 『空からの力』で日本語ラップの押韻スタイルが確立されたわけじゃん。だから、韻踏んでるやつは全員フォロアーとも言えるよね。
ブロンクス まあスチャダラもMICROPHONE PAGERも踏んではいたんだけどね。でも基準となるものがなかったんだよ。そこに、オン・ビートで、言葉は1拍に2音節でっていう基本スタイルをギドラはハッキリ打ち出した。だから、いま聴いても面白みはないのかもしれないけど、これが日本語ラップの骨格になってる。
KAZZ-K いまの若い子にとってのKREVAみたいな存在なのかな。
ブロンクス いまはいろんなタイプのラッパーがいるから、B-BOY全員がKREVA君を聴いたりなんて絶対しないけど……。
上野 当時は9割5分がギドラを聴いてましたもんね。俺も中3のときにこれ聴いて、“言葉の刀”って曲を作りましたもん。俺が虚無僧の役みたいな曲(笑)。
ブロンクス そういや当時、虚無僧みたいな格好の人っていたよね。それも何人か。ラッパ我リヤも山田マンもそうでしょ。あと、三つ目ってラップ・グループ知ってる?
KAZZ-K 知ってる! 旗持って歩いてたやつでしょ(笑)。
ブロンクス カゴ背負って下駄履いて、マジで手塚治虫の「どろろ」のキャラみたいだったよね。
KAZZ-K いま考えるとギャグでしかない(笑)。日本語だから〈和〉だろうっていう。当時はみんな、和のテイストをやたら盛り込んでたんだよな。そしたら行き過ぎちゃって。
上野 みんな個性を確立するのに必死だったからなあ。
ブロンクス マンガの「デトロイト・メタル・シティ」みたいだったね。あの流行りのせいで、日本語ラップがリアルな表現まで遠回りをした感は否めない(笑)。
上野 当時、電車に乗っててB-BOYに遭遇したら、ほんと「斬るか? 斬られるか?」くらいに思ってて。「俺のヘッドフォンの方がかっこいい」とか。で、同じ駅で降りたらテープ渡したりして。いまとなっては考えられない。
ブロンクス そういや俺もテープ作ってたな~。「FINE」誌の〈MC教室〉を読んでライム書いて……。でも、〈MC教室〉だけじゃラップできなかったよね。
上野 それはそうっすねえ。それだけじゃ微妙に情報が少なくて。
ブロンクス やっぱりキングギドラの登場を待たなきゃいけなかったところはあるよね。ヴァースの小節の数え方も知らなかったし。
上野 ああ、確かに! “見回そう”って16小節でフックに入るじゃないですか。あのオケでやってたんですけど、俺のラップがどうしても合わなくて。で、ギドラの方を聴き直してみて「ああ、ラップっていうのはこの尺で終わらせるものなんだ」って初めて気づいたんですよ。
KAZZ-K 俺らもみんなそうだった。STERUSSは6人MCがいたんだけど、“証言”(LAMP EYE)に影響されすぎて、みんな好きなだけリリック書こうってなっちゃったんだよね。だからひとり32小節くらい書いちゃってさ(笑)。ライヴがなかなか終わんないんだよ。
上野 知識がゼロだったからね。“(今夜は)ブギーバック”の〈24小節の旅の始まり〉ってラインを聴いても「読む小説のこと?」くらいに思っちゃって(笑)。
KAZZ-K 音楽を習ったことのないやつらが、そういうことをいちから発見してったんだよね。それでCD出しちゃうんだから。
ブロンクス ギドラはシンプルだったから学習しやすかったんだろうね。RHYMESTERのセカンド・アルバムなんかはデリヴァリーが凝り過ぎてたし、MICROPHONE PAGERはTWIGYさんが超オフ・ビートで真似できないし。
上野 だからギドラは教科書でしたよね。〈やっと渡された教科書〉って感じ。ただ、自分たちもそうだったんですけど、それでギドラを真似したやつが出まくっちゃったってのはありますけど。
ブロンクス 当時はキングギドラ~ラッパ我リヤ・コースってのが一番ありふれたパターンだったよね。押韻主義者って言ってる子たちも、あれ以上のインパクトに出会えてないんだろうな。
KAZZ-K そうだよね。俺もいまだに韻で聴いちゃうところはある。
ブロンクス ダサいなあと思ってても、韻が固いかどうか、一応チェックして。
KAZZ-K そうそう! 「ダサいんだけど、ちゃんと踏んでるからいいか」とか思って(笑)。俺、90年代は、韻が固いかどうかが最大の評価基準だったもんね。
ブロンクス いま考えると本末転倒だよね。ある意味呪いでしょ(笑)。KAZZ-Kの『空からの力』の一押し曲は?
KAZZ-K “星の死阻止”か“真実の弾丸”かな。でも〈蝕〉*5とかやってるけど、かけたことはない(笑)。いまだにかけるのは、“未確認飛行物体接近中”と“大掃除”だね。『OVERRAP』にも入れたし。ほかの曲は、メッセージ性が強すぎるからかけにくいっていうのはあるかもしれない。
*5 日本のヒップホップのパーティー。毎月第一土曜日に渋谷の〈THE GAME〉にて開催。
上野 俺は“真実の弾丸”すね。“見まわそう”とかはシングルだから先に聴いてるじゃないですか。で、最初にアルバム聴いたとき、最後にこの曲が来て「うおー!」って。
ブロンクス へ~。俺は“見まわそう”とか好きだったけど、そこらへんの曲は説教臭い……って思っちゃって苦手だったかも。
KAZZ-K 俺は逆だったな。ストリートの人たちでも、こういうこと考えてるんだなあと思って。そういうところに惹かれていった。
ブロンクス 俺はバカだったから「“星の死阻止”、う~ん……星かぁ?」みたいな(笑)。やっぱり、パブリック・エナミーをリアル・タイムで経験した人たちって感じだよね。
KAZZ-K ジブさんはKRSワンから来てるみたいすけどね。
ブロンクス ジブさんがKRSワンで、K DUB SHINEがパブリック・エナミーっぽいよね。この人たちは勉強家だよ。
上野 確かにラップのために勉強しなきゃいけないのかなって思わされたところはありましたよね。ドリーム・ラップス*6のメンバーで集まって勉強会とか開いちゃって。
*6 上野氏が所属していたラップ・グループ。
KAZZ-K ほんとそうだよ。ほんとに。
ブロンクス この頃はラッパーが自作のライム・ディクショナリーを作ってた。韻辞典は禁じ手だけど、自分で作るならOKみたいな。
上野 あれはいまとなっては薦められないよね。ラップがダサくなる(笑)。
ブロンクス でもギドラのやり方なら高校生でもラップできたって言うのは間違いないんだよね。実際、いまSEEDA君のラップを高校生が聴いたとして、「じゃあ俺も」って真似できるかって言ったら……。
KAZZ-K 絶対無理でしょう。