武藤昭平による、〈憧れのアーティストたちと酒場でいっしょに酒を飲んだら?〉――という深夜の妄想話!
#2 〈ロックンローラーなら〉
20時。スタジオに到着したチャック・ベリーに、キース・リチャーズが話し掛ける。「それにしても派手だなぁ、チャック。その格好だったら空港でも目立ったろ?」「人をプロフェッサー・ロングヘアみたいに言うな」とチャック。そしてキースに言われて俺たちも自己紹介を。「あ、どうもベースのウエノコウジです」「あ、ういっす。ドラムの武藤昭平です」。そこでチャックがキースに質問。「彼らはロックンローラーなのか?」「ああ、もちろんだよ」。さらに念を押すようにチャックが俺とウエノに訊く。「キミたちはロックンローラーか? ロックンロールを知ってるのか?」「はい。もちろん知ってます!」「じゃあ、ロックンローラーなら俺の曲は全部知ってるな」。チャックはそう言うとセッティングを始めた。するとウエノが俺に耳打ちをする。「おい、ムトウ。チャック・ベリーは知ってても全曲は知らんがな」「たぶんスリー・コードだから大丈夫っすよ」と俺。
そしていよいよチャックがギターを鳴らし出す。「よし、やろうか。“Maybellene”から」「は!?」――いきなりギターでイントロが鳴らされる。キースも俺も慌ててチャックの演奏についていく。しかしすぐにチャックによって演奏が止められた。「ベースのウエノ君だっけ? みんな入ってるんだから、キミもいっしょにドーンと入ってこなきゃダメだろ」と言うチャックにウエノも返す。「チャックさん、せめてキーぐらい教えてくれませんかね?」「“Maybellene”といったらBフラットだろ」「ビ、Bフラット? AとかじゃなくてBの〈フラット〉っすか?」「ウエノ君、キミは本当にロックンロールを知ってるのか?」「あぁ、すいません、がんばります」「じゃあ、もう一度。“Maybellene”!」とチャック。今度はいい感じで演奏している。
が、間奏が終わって歌に戻ったあたりで演奏がおかしくなり、またもや中断される。キース「あれチャック。コードはどこを押さえてる?」「Cだ。声の調子が良いから転調した」「さっきBフラットって言ってただろ? 打ち合わせなしで転調は無理だよ」とキース。「馬鹿。これは俺の曲だ。俺がどうしようと勝手だろ」とチャック。その時ウエノは悲痛な視線を俺に向けていた。
……武藤昭平、あくまでも妄想の話。
深夜の妄想盤
AMERICAN GRAFFITI 『Soundtrack』 MCA(1973)
若者たちの夏を切り取った青春映画のサントラには、甘酸っぱいオールディーズが満載! なかでもチャックさんの“Johnny B. Goode”は、主人公がスプレーで車をデコレーションする素敵なシーンと相まって〈アメグラ〉への憧れをより強固にしてくれたものです。
PROFESSOR LONGHAIR 『Crawfish Fiesta』 Alligator(1980)
誰も真似できない演奏と、誰も真似したがらない原色衣装でニューオーリンズ・ファンク/ブルースの礎を気付いたピアニスト。若き日のエネルギッシュな教授の演奏もさることながら、やはり春先には晩年のゆる~いサウンドに溺れたい……というわけで、本盤をぜひ!
PROFILE
武藤昭平
ジャズとパンクを融合させたオリジナルなサウンドで人気を博す伊達男音楽集団、勝手にしやがれのドラマー/ヴォーカリスト。カヴァー・アルバム『LET'S GET LOST』(エピック)の興奮も冷め止まぬなか、バンドは現在ニュー・アルバムの制作に取り掛かっているとのこと。また、5月30日(金)には今年最初のワンマン・ライヴ〈BONE MACHINE CIRCUS〉を東京・赤坂ブリッツで行う予定。その他のバンドの最新情報は〈www.katteni-shiyagare.com〉で!