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第29回 ─ 納戸色の公園

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2008/04/03   02:00
更新
2008/04/03   17:11
ソース
『bounce』 297号(2008/3/25)
テキスト
文/青柳 拓次


  去年の11月だっただろうか。

 ダブル・フェイマスのリハーサルを終えて、吉祥寺の駅から引っ越したばかりの新居へと歩いていた。リハーサルで、繰り返し演奏した曲を頭のなかのBGMにしながら。

 夜中の12時をまわった吉祥寺通り。

 井の頭公園と動物園を両目に映し、落ち葉を踏みしめる。

 公園の中間地点にさしかかったころ、雑木林が、現代美術よろしく沢山のライトに照らされ光っていた。何の撮影だろう?とおもいながらも、寒さに追い立てられ、足早に通りすぎた。

 自然がシュールな表情をみせる瞬間のおもしろさ。

 3年前のフジロックでのこと。スマッシュの日高さんが、「今年は雪を降らす!」と言って、夜の林に、雪が降っているかのようにみえる特別なライトを設置していた。ひとが、自然に一手間かけて、フォルムを美しく際立たせた出来事だった。

 映画音楽の制作を手伝うことになった。細野晴臣さんの作った曲を、高田漣くん、鈴木惣一朗さんらとアレンジした。わたしは、4つのヴァージョンを録音した。映画は吉祥寺を舞台とした作品で、この秋に公開予定だという。

 仮編集された映像を見ていたとき、小泉今日子が公園を歩くシーンにハッとした。それはまさに去年の11月、リハーサルの帰りに遭遇したあのロケでのシーンだった。

 音楽を無事に納品し終わり、完成試写会に出かけることになった。

 家から吉祥寺駅を利用して、五反田のイマジカへ。

 帰りもまた、吉祥寺から公園の通りを歩いて家に帰った。

 映画の舞台となった町から、映画を観に行き、観たばかりの映画の中の町に戻って暮らす……。

 この映画の通行人みたいなエキストラになって、映画の中と外を行ったり来たりしているようなおかしな気分だ。

 いまもその町で原稿を書き、これから同じ道を歩いて家に帰ろうとしている。

 こんな経験、めったにあるもんじゃない。

PROFILE

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famousに参加する他、KAMA AINAとしても活動。本名名義での初のアルバム『たであい』も好評リリース中。現在はDouble Famousの15周年記念盤をレコーディング中!