浮遊感に溢れた無国籍ポップスを創造する美しきエトランゼがデビュー

エミリー・シモンやダフネやケレン・アンなどを聴くたびに〈才色兼備な女性のナゾ〉について思いを巡らせて眠れなくなるのだが、ここにまた僕の夜を掻き回してくれる一枚がフランスから届いた。届け主の名はヤエル・ナイム。TVCMに使われてすでに大ヒットを記録している“New Soul”を収めた『Yael Naim』は、一言で言うと無国籍的で不思議な魅力に溢れた素晴らしい作品だ。
パリ生まれで両親はチュニジア系、幼くしてイスラエルに移住した彼女は、仏・英・ヘブライ語を操るコスモポリタンな感性の持ち主。ビートルズやアレサ・フランクリンがフェイヴァリットらしいが、その影響はルーツ音楽の洗練された解釈が行われているあたりに表れている。ソフト・サイケに展開するビートルズっぽい“Endless Song Of Happiness”、ノラ・ジョーンズを思わせるオーガニックなバラード“Lonely”、初期レディオヘッド風味の静謐なロック“Yashanti”など、デヴィッド・ドナシャンとの共同作業による独特な浮遊感を持った楽曲はどれもメランコリックでドリーミー。そこに彼女の異邦人的な歌声が重なると、空想上の異国の街角が浮かび上がるのである。そういや彼女の名前自体、どこかエキゾティックで凄く想像力が刺激されるんだよな。また眠れない夜が続きそうだ。