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第6回 ─ 曽我部恵一×鈴木慶一、〈Wケイイチ〉POP対決!!

連載
曽 我 部 恵 一、 POP職 人 へ の 道
公開
2008/02/21   21:00
テキスト
文/bounce.com編集部

ご存知〈キング・オブ・メロウロック〉こと曽我部恵一のマンスリー連載! ご自身のお店〈City Country City〉でも素敵な〈手描きPOP〉を作っている曽我部氏が、タワーレコードのPOPを担当。独自のテーマでCD/DVD/書籍をチョイスし、その作品のPOP作りに挑みます。完成したPOPとセレクション・アイテムは、タワーレコード新宿店の〈曽我部コーナー〉にて展開……というWEB&店舗の連動企画! さて今回はゲストに鈴木慶一氏が登場。〈Wケーイチ〉によるPOP対決が勃発します!

  当連載の主、曽我部恵一プロデュースによる鈴木慶一のソロ・アルバム『ヘイト船長とラヴ航海士』がついに発売! というわけで今回は、その慶一さんをゲストにお迎えしての特別企画。曽我部さんは慶一さん関連作品を2枚、慶一さんは曽我部さん関連作品を2枚選び、それぞれのPOPを執筆してもらいます。さらに、『ヘイト船長とラヴ航海士』のPOPもおふたりが別々に制作。果たしてどんなPOPができあがるのでしょうか……? 

●鈴木慶一が選ぶ〈曽我部恵一〉作品

1.サニーデイサービス『東京』

鈴木「まず、『東京』というタイトルに驚いた。それで音を聴いたら、そこに自分のカケラを感じたんだよね。自分の過去の作品を聴いたとき以上に、そういう感じがした。匂いで季節を思い出すことってあるでしょう? それに近い感覚。自分の断片が匂った珍しいアルバムだった。それは、自分がやっていた音楽に似ているっていうのとも違うんですよ。非常に説明しにくいんだけど……やっぱり〈匂い〉なんだよな。例えば、中央線沿線にあった友人の家を、夜中に訪ねていくような感じ。聴いてると、そういう色んなことを思い出すんだよね」。

曽我部「まさに、この頃のサニーデイのコンセプトが、はっぴいえんどや、はちみつぱいが過ごしたであろう青春のスタイルを生活に取り入れる、みたいなことだったんです。決して音だけをコピーするんじゃなくて。だから、読んでいたマンガとかも当時の慶一さんたちと一緒だったんじゃないかな。あと、学生っぽさというか、芸能的じゃない音楽のあり方にも影響を受けましたね」。

鈴木「そういう音楽は、俺にとっては二度と出来ないことだし、それが20世紀の、極めて終わりの方にポッと出て来たので、すごく……気を取られた。で、その青春のスタイルっていうのは、いまの曽我部君のライフ・スタイルにも繋がってるんだよね。忙しい中で、お店もやったりしてる。その感覚は、残念ながらいまの自分の中にはない。曽我部君にそれがあるのは、すごくうらやましい」。

2.曽我部恵一ランデヴーバンド『おはよう』

鈴木「これも『東京』の話とつながっちゃうね。メンバーみんなで同時に演奏して録ったアルバムだけど、その手触りっていうのは、曽我部くんの日常から、音楽という紗が掛かって浮かび上がってくる感じなんだな。即興的に作られてはいるけど、生活と地続きではない。だから日記ではなくて創作物になってる。ただ、曽我部君のライフ・スタイルも垣間見えるんだ。そこのバランスが絶妙なんだよね。それと、演奏がとても抽象的なのが衝撃だった。例えばファンキーなギター・カッティングとか、ブルージーなチョーキングとか、そういう具体的な演奏とはかけ離れた、とてもミニマルな音が、同時に少しづつ鳴ってる。これはすごくモダンだと思ったね」。

●曽我部恵一が選ぶ〈鈴木慶一〉作品

1.はちみつぱい『センチメンタル通り』

曽我部「これはもう心の一枚ですね。自分たちが日々過ごしてきて、言葉にしなかった感情が詰まってる。だから〈自分の音楽〉っていう感じがするんです。飲みながら、あーだこーだ夢を語ったりとか、くだらない話をした後の夜明けの、なんとも言えない切なさ。青春の夢と挫折が一緒になってる。そういう音楽って、これしかないんですよ」。

鈴木「いわゆるデビュー作だよね。自分の曲を自分らのアルバムとしてレコーディングしたのが初めてのことだったんで、それ以前のことがすべて集約されてる。それこそ高校より前の、ギターを弾き出した頃からのものも詰まってる。そこがデビュー・アルバムのいいところであり、怖いところでもある。で、1曲目は“塀の上で”でしょう。なんでこんなスロウな曲を最初に持ってきたかなあといまは思うんだけど、そうなってしまった。この時は早く老人になりたかったんだな(笑)。それでもいま聴きなおすと、青いところがいっぱいある曲だなあと思うね」。

曽我部「二十代前半のある日、“塀の上で”を部屋で夜明けに聴いてたら、当時の彼女が突然泣き出したことがあって。それが脳裏に焼きついてる。まさにそんなレコードなんですよ。夜明けに聴くと意味もなく泣いてしまいそうな。僕の中ではフィッシュマンズの『空中キャンプ』と似た存在です。空気感にやられちゃう感じ。そういう強さがありますよね」。

2.鈴木さえ子『科学と神秘』

曽我部「慶一さんがプロデュースしたアルバムです。大好きなんですよね。ナチュラルで、実験もいっぱいあって。理想的な女性ヴォーカル・アルバムにも思えるし、いま聴いても面白い。それこそエレクトロニカみたいな捉え方もできるし」。

鈴木「これを作った頃は、プロデュースもたくさんやってたんだけど、コンピュータを使って作るのが普通になった時期だったこともあって、音色とかをすごく追求してたんだよね。彼女の一枚目『I WISH IT COULD BE CHRISTMAS EVERYDAY』は、もうちょっと手作りな感じだったんだけど、このアルバムでは、テクノロジーの扱い方が飛躍的に進歩した感じがある。それはソング・ライティングの面でも言えるかもしれない。彼女はソロを作るまで作曲したことがなくて、〈ドラムとピアノがこれだけ演奏できるんだから作曲してみたらどうだろう?〉っていうところからソロが始まったんだよね。だから1枚目は私との共作も多かった。それが『科学と神秘』からは彼女がひとりで作り始めた」。

――そういう形で慶一さんはプロデュースも色々やられてきたと思うんですけど、今回のソロ・アルバムで曽我部さんをプロデューサーに迎えたというのは?

鈴木「ムーンライダースに向けて曲を作る中で、そこからはみ出すものもできて来た。それでソロを作りたくなったんだけど、セルフ・プロデュースだと自分流のものにしかならないわけだよね。でもいまは、自分では絶対作れないものを作りたかった。そこで曽我部君が浮かんだんだ。曽我部君って、例えば〈元サニーデイ・サービス〉ってイメージだけでは計り知れない幅がある。そこがポイントだった。スタジオに行くと、プロ・トゥールスを使いまくってる曽我部君がいて、横にはターンテーブルがあったりするんだ。それ見て、まず〈頼んで良かった〉って思ったかな。自分ひとりだったら、そういう機材を使おうとは考えないからね」。

曽我部「僕がまず思ったのは、慶一さんのファンの期待に応えつつ、新しいことをやりたいなあってことで。慶一さんがいままでやってこなかったことだけで作りたかったんです。それを肝に銘じました」。

鈴木「実際、自分では思いも寄らないものができたと思うよ。だから恥ずかしげもなく、これは素晴らしいって言えるんだよね。俺は照れ症だからそういうことはあんまり言わないんだけどさ(笑)」。

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