問題のリリック帳。表紙には、当時人気絶頂だったあの人のプリクラが……
上野 ここに気持ち悪いものがあるんですけど……(メモ帳を取り出す)。俺の上千代THE闇スナイパー(上野氏の昔の名義)時代のリリック帳。これにK DUBさんとかSOUL SCREAMとか、色んな人からサインもらって。
ブロンクス これやばいねー(笑)……DESPERADOとかのサインもある!
上野 97年かな。KENSEIさんが地方のヤバいグループを集めるっていうイベントで、それに出てた人にサインもらいまくって (笑)。で、士郎さんにもこのときに初めて会ったんすよ。俺、士郎さんがやってた〈B-BOYイズム〉(「FRONT」~「BLAST」誌の連載)を読んで、ずっと手紙を送ってたから覚えてくれてて。「君が上野くんか!」みたいな。それが16の春だったな~。
ブロンクス 士郎さんはそういうハガキ職人みたいな若手チェックもすごいよね。俺が「BLAST」誌に初めて書いたグラフィティ特集を最初に褒めてくれたのも士郎さんだったし。
上野 あとこれと一緒に他のリリック帳も出て来たんだけど、それが酷かった。途中からプリクラ帳になっちゃってて(笑)。
ブロンクス 時代が人を狂わせるのかな。これも、駄菓子屋で売ってるヒロスエのプリクラが貼られてる(笑)。その一方ではA.K.I.のサインももらって。
16歳の上野氏感激! 宇多丸師匠のサイン
上野 狂ってるよね(笑)。でも、それを救ってくれたのが士郎さんだったと勝手に思ってる。その頃ってレコードの情報もあまりないじゃないですか。だから俺、毎週「四街道ネイチャーの新譜はいつ出ますか」とかって店員に聞いてて。店員にも「わかんないよ」とかそっけなく言われて(笑)。
ブロンクス 店員からしたら相当暑苦しい高校生だよね。
上野 まわりのみんなは、そこまでハマっていくわけではないじゃないですか。あと、プロレスとかもすごい好きだったから「これはマズい」と思い始めて。自分のオタク気質に気付いて不安になってた。そこで士郎さんの文章読んで「なんだ一緒じゃん!」って思ったんすよ。こうやって正論を言えば、それが自分のB-BOYイズムになるんだとわかって。これは突き抜けるしかないな、と。
ブロンクス うんうん。当時、例えばMUROさんがブラック・ムービーとか、それこそ海外市場でも評価されてるようなお宝を紹介してた時に、士郎さんの場合は、一見ヒップホップとはまったく関係のないものをB-BOYに強引に薦める達人だったよね。ジョン・カーペンターの映画とか、マンガの「地上最強の男・竜」とか(笑)。それをB-BOYイズムだと言い切るっていう。
上野 J-POPに関しても、士郎さんが寛容な姿勢を見せてくれたから「あ、いいんだ」と思って。やっぱりみんな隠すじゃん。俺もH Jungle with Tを聴いて「浜ちゃんの歌、いいな」とか思ってたけど、やっぱり言えない自分がいて。その当時、ヒップホップのラジオで衝撃的だったのが「海に行って、日本のポップス聴くのは邪道ですか?」っていう質問の手紙が来ててさ。ヒップホップってどんだけ抑えつけてる世界なんだ? と思って。
ブロンクス そういう質問にすら士郎さんは真面目に答えるよね。正直、そんな奴が来たら、俺なら適当にウソ教えて帰らせるよ。
上野 そういうところに救われた。で、言ってることがかっこいいから「筋通ってるな、モテそうだな」と思って。
ブロンクス RHYMESTERのヒットの仕方って、セルアウトしない純粋なヒップホップでも、頑張ればここまでできるっていう模範だと思うんだよね。KREVA君の勝ち上がり方って他の人には真似できなさそうじゃん? RHYMESTERはかたくなに1DJと2MCのスタイルで勝負してる。
上野 完全にそうですね。武道館なんて……涙なしには見れなかったからな。
ブロンクス 言ってみれば、この人たちは日本のランDMCだよね。ランDMCも“Sucker MC's”でDMCが「大学出てるぜ」って言ってるじゃん。
上野 知性がにじみ出てる。俺らはそれを勘違いして受け止めて、ひたすら四文字熟語に走ったりしたけど(笑)。
ブロンクス 英語禁止ホールかよ! みたいなリリックを書く奴らもたくさんいたよね。
上野 俺の〈闇スナイパー〉も相当おかしいでしょ(笑)。なんなんだよっていう。
ブロンクス 「闇から出て来た」みたいなことを言う輩がそこら中から沸いて出て来た凄い時代があったよね。ブーキャンとかウータン・クランなんかの影響が大きかったんだろうけど。
上野 「俺たちは影の存在だ」とかね。〈闇+無駄な迷彩〉ていうスタイルが多かった(笑)。
ブロンクス あとストッキング。金歯で枝くわえて*5ストッキングかぶってる都立の高校生とか普通にいたけど、マジで頭おかしいよね(笑)。メソッドマンの真似して白いカラコン入れてる大学生とか。
*5 色々なフレイヴァーを沁みこませた枝をくわえるのが、一時期B-BOYの間で流行した。
上野 それで「俺たちは闇から出て来た」とか言ってたら親に心配されるよ(笑)。でも枝リヴァイヴァルやりたいな。こないだ(ロベルト)吉野にくわえさせたんだけど、ガリガリ食って「まずい」って言ってた(笑)。
ブロンクス シナモンにすれば良いのに。でも、そういう枝とか草みたいなイメージってRHYMESTERは打ち出してなかったよね。割とクリーンなイメージ。遊びにしても〈酒とナンパ〉みたいな。
上野 FG全体にただようナンパな感じってあったよね。最初はそこが自分の中で引っかかってた。でも『EGOTOPIA』聴いて一発でひっくり返った。「俺は何を考えてたんだろう」って。