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第26回 ─ 白い青のベルリン

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2007/12/27   00:00
更新
2007/12/27   17:29
ソース
『bounce』 294号(2007/12/25)
テキスト
文/青柳 拓次


  一通のメール。

 「わたしはヨルグ・フォラートというドイツのアーティストです。このたび、ベルリンで開かれるワールドトロニクスというフェスのキュレーターになりました。もし興味があれば、こちらに来て演奏しませんか?」

 ヨルグ・フォラート。

 7、8年前だったか、TSUMORI CHISATOの音楽担当をやっていたころ、彼がヴンダーという名義で発表した曲をファッション・ショウで使ったことがある。その後も、ヴィクセル・ガーランド名義で作られたアルバムを楽しんで聴いてきた。

 そう、わたしは彼のファン。

 第1回ワールドトロニクス。

 日本、チリ、コンゴ、イスラエルの4か国からアーティストが招かれ、5日間にわたって、エレクトリックとアコースティック楽器によるあたらしいオンガクを奏でる祭典。

 ドイツへむかう道すがら、となりに居合わせた女の子と話し込む。フランスにいる彼と暮らすため、水商売を辞めて仙台をでてきたという。あるとき、白人のお客さんに「世界でもっともコンプレックスが強いのは白人なんだよ」といわれたらしい。彼女もわたしも考えたことのなかった視点で、共に大きな時間差を経ておどろいた。なにか現代社会の秘密を聞いてしまったような気にもなった。ただし、この言葉には、彼が持つ白人の歴史観や被害妄想も多分にふくまれているとおもわれる。

 オープニングの夜、われわれ出演者を迎えてくれたのは、ドイツの伝説的ロック・グループのハルモニアによる復活ライヴだった。

 電子楽器と映像機器をあやつる3人のメンバーと、4組に分けられた30人あまりのコーラス隊が舞台にいる。女性のコンダクターは、テクノのビートにのって各パートに近づき、口伝えでうたのラインを伝達し、ジェスチャーで声量の大小をコントロールしていた。

 おそらく即興で生まれたメロディーもつかわれているのだろう。そんな軽やかさと、楽しげにうたう彼らを見て、聴き手のわたしは解放されたのだった。

 ジャパン・デーに出演したのは、トウヤマタケオ・カルテット、タケムラ・ノブカズ、ミホ・フォリオ、そしてカマ・アイナ。

 キュレーターのヨルグが「今夜はオンガクファンとしての自分に贈りたい!」と語るほど、彼を含めたドイツの観客たちは、われわれをあたたかく好意的に迎えてくれていたようだ。

 さあ明日はコンゴの日! コノノNo.1が出演する。

 こんどは、わたしに贈る夜がやってくる。

PROFILE

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famousに参加する他、KAMA AINAとしても活動中。本名名義での初アルバム『たであい』も好評リリース中。コンピ『おやすみなさい』に書き下ろし曲を提供。