中国の茶こし付き湯のみに三年番茶を入れ、湯をそそぐ。しばらく待って湯のみのフタをとり、陶器の茶こしを持ち上げ、湯のみのふちへ斜めに引っかけるとお湯が切れ、なかには赤茶色の番茶がのこる。ほんとうは、薬缶で煮出したほうが味も香りもよろしいのだけど、スタジオなどの外出先では、この方法が手間をとらない。
この茶こし付き湯のみは、鹿児島の「民芸茶寮かねじょう」の御主人から頂いたもの。我が家には2セットあって、一つは蓮の花、もう一つは釣り師が描かれている。
コーヒーの香りがする音楽は想像しやすい。ショーロ、ボレロ、バチャータ、カントリー・ブルース等々。
さて、お茶となると?
されば、この春、上海のアスターホテル(浦江飯店)のロビーを歩いていたとき、後ろから「あれ、青柳くん?」と声がかかる。振り向くと、塚本サイコさんがそこにいた。
彼女は「デザートカンパニー」や「森のガクショク」という人気飲食店をプロデュースする傍ら、ミュージアム・オブ・プレートとして音楽活動を行っている。1999年に「茶音」というタイトルのアルバムが発表されたとき、彼女の名付けのセンスにとても感激した憶えがある。
お茶をいただくことは、とても人間的な行いと時間です。
わたしが喫茶店に入ると何をしているか思いかえす。
手帖を広げて予定の確認。手に入れた古本をめくる。新聞に目を通す。歌詞を覚える。トイレにいく。ラジオやコラムの原稿を書く。もちろんお茶も……。
お茶ということばのもつ「ゆったりした時間」というイメージとは程遠くもあるが、これも一つの人間的な状態なのだろう。
PROFILE
青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famousに参加する他、KAMA AINAとしても活動中。本名でのファースト・アルバム『たであい』が11月7日にリリースされた。