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第23回 ─ ネービーブルーのキカイ

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2007/10/18   00:00
更新
2007/10/18   17:16
ソース
『bounce』 291号(2007/9/25)
テキスト
文/青柳 拓次

 おぼえている。

家のあの部屋、あのスピーカーからきこえてきたこと。口は半開きで、目の瞳孔はひらいていた。よだれは? おぼえていない。

高校生のときに出会ったパブリック・エナミーは、それまで知っていた音楽のどれにも似ていない耳ざわりだった。

開発されたばかりのキカイをこき使い、強引にテンポをあわせ、音のコラージュとして組み上げられた傑作。何枚かのレコードから引き抜かれた音源たちの、噛み合わないピッチに興奮する。「ドント・ビリーヴ・ザ・ハイプ(メディアを信じるな)」というメッセージと共に。
 
あらゆるキカイの音楽を聴いてきた。テクノ、ドラムンベース、エレクトロニカ……。
  そしていま、パブリック・エナミー以来のスリルを満喫している。
  スリランカ出身のM.I.A.。 
  彼女のファーストもセカンドも、我が家の車を低音でふるえさせ、体感速度をはげしく上げさせるのだ。 
 
彼女が手にしているキカイは、ローランドのMC-505という小型の鍵盤がついたシーケンサー。 
  楽器の弾けないひとが、あるキカイという自由の道具を手にしたときの創造力には空恐ろしいものがある。彼女もその例にもれず、直感的で天才的な音作りをつづけている。 

70年代まではこうだった。 
  どこかのドラマーが新しいビートを世界に放り投げると、うけとった別の国のドラマーが、それを更新したり新たなリズムを加えたりしながらまた世界に投げ返していった。そうやって世界のドラマーたちが新しいビートの潮流を作っていたのが、80年代になると、その主導権は完全にキカイをいじる人々の手にわたる。 

生まれたばかりのビートをドラマーが肉体化するのに、だいたい2~3年はかかるので、つねにキカイをいじる人々の後を追っていくことになる。 
 
リハーサル・スタジオで、仕入れたばかりの新しいビートを爆音でかける。ドラムをまえに、スティックを握る狂った暴徒と化する。覚えたてのヨガの型にも似て、からだは新しい動きを愉しむ。

PROFILE

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famousに参加する他、KAMA AINAとしても活動中。畠山美由紀 with Hands of Creationとの全国ツアーが11月3日からスタートする。青柳拓次名義での初ソロ作の詳細は次号にて。