俳句はカメラのなかった時代の写真だ、と思ったのは、名句をこども向けに集めた本をひらいていたときのこと。
写真は、絞りを使い分けることによって、フォーカスを当てる対象とボカす部分を調節できるし、シャッタースピードをかえることによって、肉眼で見える世界より暗くしたり明るくしたりすることができる。
これは俳人が目の前にひろがる風景のどこに着目し、抜き取り、その技術を以て表現するかにとても似ている。
いわば現実のコントロール。
ただ、俳句の場合は現実にはない風景や世界、ときには記憶について表現することもある。
詩の世界で俳句的な世界観の作品をのこしたひとがいる。
アメリカのユダヤ系詩人、チャールズ・レズニコフ。
四月
小枝の強ばった線が
蕾みによってぼやける。
月夜
木々の影が芝生の黒い水たまりに広がる。
橋
雲のなかに鋼の骨たち。
レズニコフの前にはウィリアム・カーロス・ウィリアムズがいた。かれは生涯町医者をしながら、詩作に励んだ。かれ以前のアメリカには、俳句的な作品は存在しなかったらしい。
先月、浜松へむかう新幹線のなか、俳句の音「五七五」をつかって曲を作ってみた。
「ドーミドレミー、ファソファミレドレ、ミドレシラ」。
タイトルは「月に提灯」。
意味の無いこと、無益なことを意味することわざだが、月夜に提灯が灯っていても素敵かもしれない。
PROFILE
青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famousに参加する他、KAMA AINAとしても活動中。現在は青柳拓次名義のファースト・アルバムを制作中で、リリースは11月を予定。畠山美由紀との全国ツアーも計画中。