「ボブ・ディランの曲で何が好き?」。
先月の弾き語りツアー中、小栗栖くんに聞いた。
「〈北国の少女〉ですね」。
同感。田舎からやって来たディランの、もっとも素朴でロマンティックな部分が出ているとおもう。
「FMから流れて来たんです、衝撃的な出会いでしたよ」。
ラジオで自分に響く曲に遭遇する、これこそ幸福な音楽との出会い。次に何がかかるか分からない状況で、聞き手のある季節を深く染める曲が流れてくる。確率の低いクジから大当たりを当てたようなものだ。
記憶をたどれば、わたしの九回目の誕生日、1980年12月8日。
AMから「ハッピー・クリスマス」が流れていた。屋根裏に居たわたしは、両脇を抱えられ持ち上げられたような気持ちになった。大変な感動をしたのだ。曲がおわるとアナウンサーは「ジョン・レノンが今日撃たれて亡くなりました」と伝えた。その日にわたしは、世界の誰かが誕生日であろうと人は死ぬということを知った。
イギリスのクラシックFMの月間ベストアルバムにKAMA AINAの『ミュージック・アクティビスト』が選ばれたのは2年前。クラシックの家系に育ったわたしが、主にクラシック以外の音楽から吸収し制作した作品が、クラシックのフィールドから目をつけて貰えたことに驚いた。その放送局の音楽的な幅と寛容さにも。
あるリハーサルの帰り路、車の中でNHK FMをつけた。UAが内橋和久さんとお喋りしている。知っている人がラジオで喋っているのを聴くのは愉しい。『breathe』というアルバムの話をしていて「Moss stares」という曲に話題は移行していった。
「それじゃあ、モス~です。聴いて下さい」。
イントロが流れ、あ!ちがうと気付いた。自分がUAとデュエットしている「Beacon」という曲だ。UAが一番をうたったあと、自分の歌声が車中に充満する。家の駐車場に着いても曲が終わるまで静かに座って聴いていた。このまま何もおこらずに番組が進めばおもしろいのに、と思っていたら、すかさず次の曲がかかり、なにごとも無く別のコーナーへ進行して行った。
一部始終を確認してキーをぬいた。
PROFILE
青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famousに参加する他、KAMA AINAとしても活動中。KAMA AINA名義で高田漣、MOOSE HILLと共作したニュー・アルバム『上海』がリリースされたばかり。