細野晴臣の偉大なる音楽履歴を再探訪!
細野のメジャー・デビューは、ブルース・ロック・グループのエイプリル・フール。メンバーは細野のほかに、小坂忠、柳田ヒロ、菊池英二、松本隆。
〈日本語ロック〉の礎を築いたはっぴいえんど
大瀧詠一、鈴木茂、松本隆と共に、はっぴいえんどを結成。ウェストコーストの名バンド、バッファロー・スプリングフィールドからの影響が濃いとされる骨太で埃っぽいサウンドと、文学的センスを湛えた日本語詞で、わずかな活動期間のあいだに滋味深い名曲を次々と生み出した。その革新性は日本のロックの礎を築いたとされる。バンド解散直後には初のソロ・アルバム『HOSONO HOUSE』を発表。アメリカ南部の田舎臭さとハリウッド・ノスタルジー的世界観が入り交じったこの作品は、リズミカルな言葉とメロディーがチャーミング。はっぴいえんどに比べ、演奏のグルーヴ感もより力強いものとなった。
トリビュート・アルバムでは、はっぴいえんど『はっぴいえんど』収録の“風をあつめて”をたまきあや+谷口崇+ヤマサキテツヤがインストゥルメンタルでカヴァー。『風待ろまん』収録の“風来坊”をジム・オルーク+カヒミ・カリィがカヴァー。『HOSONO HOUSE』収録の“終わりの季節”を高野寛+原田郁子が、“恋は桃色”をヤノカミ(矢野顕子+レイ・ハラカミ)がカヴァー。
日本のポップス・シーン、陰の立役者
細野、鈴木茂、松任谷正隆、林立夫の4人から成る『HOSONO HOUSE』のレコーディング・メンバー=キャラメル・ママは、その後もセッション・バンドとして吉田美奈子、荒井由実、南佳孝、アグネス・チャン、変わり種としてはフィリーのヴォーカル・グループであるスリー・ディグリーズ……など、多くのシンガーを好サポート。細野個人がプロデューサーとして活躍しはじめたのもこの時期だ。キャラメル・ママはやがて、凄腕ミュージシャンの集合体=ティン・パン・アレーへと発展。オリジナル・アルバムも発表する。
トリビュート・アルバムでは、スリー・ディグリーズ“Midnight Train”を畠山美由紀+林夕紀子+Bophanaが、ティン・パン・アレー『キャラメル・ママ』収録の“イエロー・マジック・カーニバル”をヴァン・ダイク・パークスがカヴァー。
世界中のリズムをゴッタ煮にして作り上げた純国産サウンド
キーワードは〈チャンキー(ゴッタ煮)〉。マーティン・デニーにインスパイアを受け(彼の“Firecracker”は、のちにYMOでカヴァー)、世界中のリズムを採り入れながら、西洋から眺めた東洋を音像化してみせた。『トロピカル・ダンディー』『泰安洋行』『はらいそ』といった作品群は〈トロピカル三部作〉と呼ばれ、その先験的サウンドは、当時よりもむしろ現代のアーティストたちに大きな影響力を与えている。
トリビュート・アルバムでは、『トロピカル・ダンディー』収録の“北京ダック”を口ロロが、“ハニー・ムーン”をテイ・トウワ+NATURAL CALAMITYが、“三時の子守歌”をWORLD STAN-DARD+小池光子がカヴァー。『泰安洋行』収録の“蝶々・San”をウッドストック・ヴェッツが、“ブラック・ピーナッツ”をヴァガボンド+片寄明人がカヴァー。
テクノ・カットもお似合いです
坂本龍一、高橋幸宏と共にイエロー・マジック・オーケストラを結成。コンピュータ・ミュージックとディスコを融合させたナウなサウンドと斬新なイメージ戦略によって、世界的な成功を収める。YMOのサウンドはまもなく〈テクノ・ポップ〉と呼ばれるようになり、同時期に起こっていた海外のニューウェイヴ・シーン、さらにはハウス、テクノといった、のちのダンス・ミュージックにも影響を与えていく。
トリビュート・アルバムでは、『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』収録の“アブソリュート・エゴ・ダンス”を東京スカパラダイスオーケストラがカヴァー。
お茶の間にHOSONOサウンド
YMOでの成功がきっかけにもなり、作家としての依頼が急増した80年代初頭の細野。YMO“ライディーン”のイントロをそのまま流用したイモ欽トリオ“ハイスクールララバイ”、山下久美子“赤道小町ドキッ”、中森明菜“禁区”、松田聖子“天国のキッス”などのヒット曲をお茶の間に提供。メロディーメイカーとしての才を改めて世に知らしめながら、80年代のポップス・シーンを彩った。
トリビュート・アルバムでは、イモ欽トリオ“ハイスクールララバイ”をLITTLE CREATURESが、松田聖子『Touch Me, Seiko』収録の“わがままな片想い”をコシミハルがカヴァー。
YMOを離れて……
音楽的欲求は果てなく、82年にはソロ・アルバム『PHILHARMONY』を発表。YMOを散開させた83年には自身のレーベル、ノン・スタンダードを立ち上げ、より先鋭的な作品を発表していく。
トリビュート・アルバムでは、『PHILHARMONY』収録の“スポーツマン”を高橋幸宏がカヴァー。