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第113回 ─ 謎多き〈テムズ・ビート〉を徹底解剖!

連載
360°
公開
2007/03/29   19:00
ソース
『bounce』 285号(2007/3/25)
テキスト
文/冨田 明宏

ネバーランドってどんなトコ?

 ここではUKで発生した新たなロックの流れ〈テムズ・ビート〉について紹介していこうと思うのだが、われわれ日本人にとってこのムーヴメントは少々わかりづらい文化やリレーションシップの上に成り立っている。19世紀のファッションや文学の復古、アイリッシュ・トラッド的情緒の添加、そしてスキッフルの持つ雑多なビート感の導入などが特徴として挙げられるが、しかしこれはあくまでホロウェイズやラリキン・ラヴなどに共通するキーワードであって、これらの項目に該当しないアーティストも実際には多数存在するわけだ。じゃあいったい〈テムズ・ビート〉って何? シーンの顔役でもあるホロウェイズのアルフィー・ジャクソン(ヴォーカル/ギター:以下同)に、そのあたりを直撃した。

「実は、僕らには明確な共通点なんてないんだよ。強いて挙げればスペシャルズとポーグスが好きなことくらいさ。もともとミステリー・ジェッツのハリソン一家が、イール・パイ・アイランドを拠点にしたのがきっかけだね。そこにラリキン・ラヴやその友人たち、要するに俺たちやジェイミー・Tが集まって新しい音楽をやりはじめたんだ」。

 となると、イール・パイ・アイランド周辺で活動している人たちを総称して〈テムズ・ビート〉って呼ぶわけね!?

「う~ん……そんな感じなのかなぁ。イール・パイ・アイランドは19世紀のダンスホールからヒッピー登場まで、かつてはロンドンの音楽史でもっとも重要な場所だったんだ。実際に、この島の物語が僕たちのサウンドに影響しているしね」。

 どうやら〈テムズ・ビート〉は音楽の聖地に集い、歴史や文化に触れるということが重要なようだ。わかりやく置き換えると、東京における〈高円寺シーン〉の精神性と言ったところか。ではなぜテムズ・ビートが興ったのだろう。そう、お察しのとおり、21世紀初頭にトラディショナルな英国文化や文学性を復権させた〈リバティーンズ革命〉の巨大な影響によるものなのである。現在のUKは〈ニュー・レイヴ〉だけじゃない! 〈テムズ・ビート〉周辺はとにかく良質なアーティストが多いので、これを機にぜひ注目してほしい。

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