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第121回 ─ さくらん

連載
NEW OPUSコラム
公開
2007/03/01   19:00
更新
2007/03/01   20:26
ソース
『bounce』 284号(2007/2/25)
テキスト
文/村尾 泰郎

ある女の子が自分らしさを求めて突っ走る青春群像劇……なのですが、舞台は遊郭です!


(C)2007 蜷川組「さくらん」フィルム・コミッティ (C)安野モヨコ

2006年/日本 監督/蜷川実花 原作/安野モヨコ 脚本/タナダユキ 音楽/椎名林檎 出演/土屋アンナ、椎名桔平、成宮寛貴、木村佳乃、菅野美穂、永瀬正敏他 東京・シネクイント他にて公開中、3月3日より全国拡大公開予定(配給/アスミック・エース)

 蜷川実花(写真家)×土屋アンナ(女優)×椎名林檎(ミュージシャン)。こうやって名前を並べてみただけでも豪華絢爛。それぞれの分野で我が道を行くお姐さん方が、安野モヨコのコミックの映画化で手を組んだ。蜷川実花はこれが初監督作品、椎名林檎は初の音楽監督就任。そんな初々しさも眩しい彼女たちが本作で創り出したのは、極彩色で彩られた遊女の世界だ。

 桜が満開のなか、8歳で吉原遊郭の大門をくぐった少女、きよ葉。彼女が17歳で日暮と名前を変えて、吉原一の花魁になるまでの波乱に満ちたドラマが描かれていく。風俗のド真ん中で青春を送り、のし上がっていく日暮は歌舞伎町ならぬ〈吉原の女王〉。男たちから〈ヤル機械〉として扱われ、初めて惚れた男にも裏切られ、ライヴァルからは目の敵にされと、濃すぎる青春を走り抜けながら、日暮は理不尽な世界に立ち向かう。そんなお江戸のライオット・ガールぶりを、ヤニで灼けた声と剃刀みたいな流し目で演じきった土屋アンナに拍手。全曲書き下ろしとなる林檎ちゃんの楽曲は、フル・オーケストラを従えて日暮のエモーションをブチまける。そして、なんといっても印象的なのは、蜷川が隅々まで作り込んだヴィジュアルだ。大門にはめ込まれたギヤマンの水槽には蜷川のモチーフでもある金魚が泳ぎ、赤のイメージが吉原という小宇宙を染め抜いていく。アンナと共に遊女を演じた木村佳乃、菅野美穂もモロ肌脱いで魅せまくりの花魁絵巻。絵師の永瀬正敏、日暮と因縁の間柄の安藤政信など色男も顔を揃えつつ、ヴィヴィッドな映像の中を動き回る登場人物たちがキラキラと輝いてる。時代を感じさせない時代劇!