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第109回 ─ カルロス・ニーニョの居間はいま、遙かな精神宇宙へと繋がっている

連載
360°
公開
2007/01/18   14:00
ソース
『bounce』 283号(2006/12/25)
テキスト
文/出嶌 孝次


 LAアンダーグラウンドの深みでヒップホップ~ジャズ~ソウル~エレクトロニカなどをフュージョンさせたラジオ・ショウ〈Spaceways〉のホストを務め、その界隈の最重要人物と目されているのがカルロス・ニーニョだ。ファビアン・アモンとのアモンコンタクト、〈9.11〉とサン・ラーのトリビュートを契機に動き出したビルド・アン・アークなどのユニットで名を馳せてきた彼が、このたびライフ・フォース・トリオのアルバム『Ima』をリリースした。ファラオ・サンダースのクァルテットなどで歌ってきたドゥワイト・トリブルのバックを担う形で、2005年に『Love Is The Answer』を発表している同ユニットだが、今回はより演奏陣の個性を活かしたセッション作となっている。アリス・コルトレーンに捧げられた“Alice”などカルロスらしい先人への敬意表明も随所に窺えるが、折衷主義で織り上げられたコズミック・ジャズ絵巻は過去の模倣に止まるものではない。今後より大きな展開も噂される彼の周辺だが、ひとまずここでは近年の関連作を紹介しておこう。

HU VIBRATIONAL 『Universal Mother : Boobghee Music 3』 Soul Jazz/BEAT(2006)
カルロスが制作面に携わるユニットの3作目。前作同様にユセフ翁の参加もトピックだろうが、クレイ・ドラムや親指ピアノ、ハーモニウムなどで重厚に編み上げられたミニマルなオーガニック・グルーヴそのものがヤバい。

BUILD AN ARK 『Peace With Every Step』 Kindred Spirits(2004)
フィル・ラネリンやネイト・モーガンを従え、ファラオ・サンダース“You've Got To Have Freedom”も取り上げた本作は、カルロスの名を上げると同時にスピリチュアル・ジャズ再興&再考の決定打となった。新作が待たれる!

『Carlos Nino Presents The Sound Of L.A.』 Really Happening/OCTAVE(2006)
カルロスの旗振りによるコンピで、デイデラスやノーバディ、サー・ラー、カット・ケミスト、カンキック、ジョージア・アン・マルドロウ、ヤング・ジャズ・レベルズ(マッドリブ)などなどヒップホップ基盤のオルタナな才能が大挙集結した、表題に偽りナシの豪華盤だ。カルロス自身もアモンコンタクトでアヴァンに登場。

DWIGHT TRIBLE & THE LIFE FORCE TRIO 『Love Is The Answer』 Ninja Tune(2005)
J・ディラやサー・ラー、マッドリブ、デイデラスらのトラック提供を得て、カルロスの仕切りでドゥワイトが歌いまくるプロジェクトの初作。ファラオのカヴァー“A Love Supreme”も美しすぎる、至上のスピリチュアル・ソウル作品!!

AMMONCONTACT 『With Voices』 Ninja Tune(2006)
ミニ・アルバムを含めれば4枚目にあたる最新作。プリンス・ポーらMC陣をはじめ、カット・ケミストやユセフ・ラティーフらの演奏を闊達に喋らせながら、LA地下シーンの連環ぶりをまざまざと見せつけた逸品だ。

DWIGHT TRIBLE 『Living Water』 Dwight Trible/Ninja Tune(2004)
2006年にニンジャからリイシューされた自主盤で、ビル・リーの“John Coltrane”やアブダラー・イブラヒム“Ishmael”などスピリチュアル系の名曲を自作詞も加えながらカヴァー。カルロスは非関与ながら、ビルド・アン・アークの演奏陣が参加した仕上がりはやたら艶やかだ。

YUSEF RATEEF 『Eastern Sounds』 Prestige/Concord(1961)
カルロス関連作の常連である大御所サックス/フルート奏者の、特にクラブ文脈で人気の一枚だ。ネタ使用頻度の高い「スパルタカス」「聖衣」のテーマ曲以上に、“The Plum Blossom”などの妖しさが聴きモノ。掲載ジャケは2006年のリマスター盤。