ファースト・アルバム『Sound by iLL』をリリースしたiLLによる語り下ろしオリジナル新連載がコチラ!! iLLこと中村弘二が、地球や宇宙のさまざまな深い神秘について語りつつ、そのシチュエーションにピッタリの5曲をリストアップしてくれます。神秘はどこにでも転がっている?かもしれない? 第六回目のテーマは〈木枯らし〉編。下の〈iLLなプレイリスト〉を参照しながらどうぞ!!

木枯らしは……乾いていて、孤独や寂しいイメージがあるかな。ただ、木枯らしって言われてもねぇ、それって一瞬のことだからね。雰囲気としてはあると思うけど、木枯らしに思い入れはないかなぁ(笑)。ただ、木枯らしからイメージされる孤独や寂しさってことでいうと、デヴィッド・ボウイがいいかな、と。デヴィッド・ボウイって、全編通して俯瞰した視点で曲を書いていて、そこには皮肉も込められているし、若い頃から俯瞰してるから何かを始めても終わりを見据えつつ曲を書いているというか、物事が枯れることを想定して曲を書いているよね。デヴィッド・ボウイはね、初めて聴いた洋楽アーティストなんだけど、中学生の時、兄貴が聴いていたものを借りて聴いて以来、ずっと好きなアーティストで、自分が音楽を作るきっかけだったり、自分のスタイルの基本的な部分は彼から学んだりしていて。ルー・リード、イギー・ポップ、デヴィッド・ボウイっていう3つのスタイルがあるとしたら、ボウイのスタイルで曲を書きたいと思ったし、音楽をやりたいと思ったなぁ。その時々で音楽性が変わっていくっていう変遷も参考になったし。参考というか、それが普通なんだなっていう。ボウイに関しては、ホント、俺、単なるファンだから(笑)。ここ最近のアルバムもちゃんと聴いてるし、トニー・ヴィスコンティと仲直りしてからのアルバムも好きだよ。ここ最近のボウイはね、高い評価も得てるし、お金もあるから、「え、俺、楽しんじゃってもいいのかな」っていう素の部分が見えて、それがまたいいんだよね。
この曲って、ライナーノーツによると、ホモセクシャルとかちょっとケバい曲っていうことになっているけど、当時のボウイは黒人の解放運動に近い形でゲイ・カルチャーにシンパシーを感じて、嘘かホントか、自分のことをゲイだと公言して「ホモセクシャルやバイセクシャルも人間なんだ」っていう運動をしていた時の曲で。ゲイ・カルチャーに対して、公に出来なかった当時のイギリスや世界の状況下で「俺はただダンスしたいだけ」って歌ってしまうボウイの寂しさや希望はちょっと木枯らしっぽい気がするんだよね。で、まぁ、この曲が木枯らしっぽいのは、曲のイメージというより、このビデオ・クリップで歌ってるボウイの息が寒さで白くなってて、そのイメージが強かったっていうことも大きかったりして。……え? すごいところから選んでるって? それはそうだよ、俺、マニアだから(笑)。
そもそも、この曲が入ってる『Station To Station』ってアルバムが全体的にもの悲しいというか、ボウイが絶望して、疲れていた時期のもので。この曲も切ないというか、虚無感が色濃く出ているものなんだよね。彼は当時、アメリカに行って、そのカルチャーにどっぷり浸かるんだけど、その後「アメリカはやっぱり最悪だ」と思いながら、ヨーロッパで作ったアルバムで。ある意味で『Low』や『Heroes』でベルリンに行く前の「さて、どこへ行こうか」っていうムードがあるというか、全体的に木枯らしっぽいんだよね。自分のボウイ年表でいうと、『Young Americans』と『Station To Station』は秋の時期だから(笑)。や、多分ね、相当な挫折だったんだと思うよ。ソウルが好きだから、ただソウルをやったら、「こんなのプラスティック・ソウルだ」とか言われて偽物扱いされるわけで。音楽家からしたら、ナンセンスなわけじゃない? だって、好きに音楽をやりたいだけなんだから。そういう意味で、このアルバムには「アホだなぁ、人間って」っていうムードがよく出てるよね。
この曲は時期がどうこうっていうより、“出会う時は他人”っていう曲のタイトルからして、そのまんまというか、ボウイらしい曲で。そりゃ、そうだよねって思う反面、ものすごく寂しくなるようなタイトルをガーンって持ってきて。しかも、この曲が『Outside』の中で一番いい曲だったりするっていう(笑)。こういうセンスはボウイだなぁって思うな。出た当時、このアルバムをボロクソに言う人はボロクソに言ってたけど、俺はものすごく好きなアルバムだったし、復活しかけてたボウイが完全に復活したアルバムだと、今は思ってるかな。今、聴くとすごくいいアルバムだし、もっと評価されていいアルバムだと思う。
(ボウイが90年代初頭に結成したバンド、ティン・マシーンについて訊いてみたところ……)ティン・マシーンは……ないです。そんなバンドはいないって感じかな(笑)。ああいうバンドをやりたい気持ちは分かるけど、スーパースター、デヴィッド・ボウイと他のメンバーの意識が違いすぎるよね。このバンドをやってた当時のいい人すぎるボウイはボウイじゃないんだよね。50歳のバースデイ・ライヴの映像を見たら、スマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンとかルー・リードなんかと共演してるんだけど、全然歌わせないし、ゲストを立てようっていう意識もなくて、ホントにヒドいのね(笑)。やっぱり、ボウイは俺様節じゃなくっちゃね。
ドラッグ中毒から逃げるためにベルリンへ行ったら、そこがドラッグの巣窟だったっていう。しかも、イギー・ポップなんかと一緒に行ったら、よけいハマるだろって(笑)! そういう時期のアルバムなんだけど、内容はすごくいい。で、この曲って、アルバムの中では聴きやすい曲で、「時々寂しくなる」っていう歌詞に、ボウイの斜に構えて遠くを見る俯瞰の視点が色濃く出ていて、それが木枯らしっぽいんだよね。そういう意味で好きな曲かな。彼はこの時、旅をしてるんだけど、旅をしつつも、安住の地が欲しかったんだろうね。あとね、このアルバムのレビューを読むと、たまに「今聴くとチープなサウンド」って書かれてたりするんだけど、「今、このアルバムで使ってた機材を揃えると、云百万するっつーの!」って腹が立つんだよね(笑)。俺が一番好きなボウイのアルバム? いや、ボウイのアルバムは好きすぎるから、家ではあんまり聴かないんだよね。好きなものって頭にインプットされてるから、あんまり聴かなくてもいいというか、自分にとっては師匠みたいなものだから、師匠の作品を常に聴くのもねぇ(笑)。ただ、逆にね、今までそんなに熱中しなかった『Pin Ups』とか『Diamond Dogs』、あとは『Lodger』みたいな、地味なアルバムは聴いたりするかな。
まぁ、『Space Oddity』自体、みんな、あんまり聴かないと思うんだけど、意外に曲が良かったりして。そういう意味で、過小評価されてるアルバムをフックアップする意味を込めつつ、まぁ、フォーク的な要素が含まれてる内容だし、音的に乾いてて、木枯らしっぽいから取り上げよう、と。初期のボウイって、いわゆるボウイらしさがあまり固まってなくて、様々な音楽要素を取り入れつつ解釈した作風で、特にこの曲に関しては同じフレーズがずっと続くドラッギーな雰囲気というか、中期から後期ボウイに繋がるような要素をちょっとずつ見せ始めている曲なんだよね。ボウイっていうとケバくて、グラム・ロックでしょっていう捉え方があると思うけど、グラムってビジュアル的に痛かったりするじゃない? 例えば、ロキシー・ミュージックのブライアン・イーノとか「ヤバい、ハゲかけてるよ」って思うし(笑)、ゲイリー・グリッターとかスウィートの衣装を見ると、お笑いみたいじゃない? だから、グラム好きかって言われると、何とも言えないんだけど、グラム・ロック・アーティストって、実質、T・レックスとデヴィッド・ボウイのことだし、その2つにしても、最初はフォークだったりするからね。もちろん、ファッションとかアティテュードとしてのグラムっていうのはあると思うけど、音楽的には意外に実体がないと思うんだよね。
iLLなプレイリスト~木枯らし編~
1. DAVID BOWIE“John I'm Only Danging”(『プラチナム・コレクション』収録)
2. DAVID BOWIE“Word Is The Wind”(『Station To Station』収録)
3. DAVID BOWIE“Strangers When We Meet”(『Outside』収録)
4. DAVID BOWIE“Be My Wife”(『Low』収録)
5. DAVID BOWIE“Memory Of A Free Festival”(『Space Oddity』収録)
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