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第9回 ─ ピリモアについての考察

連載
踏 切 次 第
公開
2006/07/20   02:00
更新
2006/07/20   18:50
ソース
『bounce』 277号(2006/6/25)
テキスト
文/次松 大助

 頬杖をつくと、手の指先から缶詰のパイナップルの匂いがする。

“ピリモア”という仮タイトルの曲をメンバーが持ってきて、歌詞を書くことになったのですが、何を書いたらいいのか皆目見当がつかないので、とりあえず本人に「ピリモアって何?」と尋ねると、「浅田真央ちゃんみたいな天才で、何を言ってるのかわからない感じ」という答えが返ってきました。〈あなたが一番ピリモアです〉と思いつつ、あまり参考にならなかったので、自分なりの〈ピリモア〉を探すことにしました。

 響きから察するには、人名ではなさそうな気がします。雰囲気的には、彫刻家などが使う小道具か何かのようなもの、というのがしっくりきそうだったのですが、そんな架空の小道具を一曲に渡って拡げる自信はありません。困ったなぁと思いテレビをつけると、時刻は夕方、退屈を映像にしたような番組ばかりで、音を消してボーッと相撲中継を観ながら、ふと「あぁ、この感覚は……」と思い出しました。幼い頃から現在に至るまで、多分、季節ごとに一度か二度は感じてきた曖昧な退屈が、時折物の働きによって助長される現象です。これを仮に〈退屈の液体化〉と名付けると、普段気体として部屋に蔓延する退屈を液体化させる触媒(この場合は〈相撲中継〉であり、他に例を挙げるなら、夏場、誰もいない方向に首を振り続けている扇風機などです)、その触媒にもし名前をつけるなら、それこそが〈ピリモア〉ではないか。なるほど。膨らみました。〈ピリモア〉にはたぶん色々と種類があって、記憶の中で〈ピリモア〉へと昇華するものもあるようです。学生の頃の夏休み、周囲の友達は実家に帰り、一人で無性にシチューが食べたくなって、普段料理などしない僕が、野菜や肉を買ってシチューを作り、〈あんまりおいしくもないな〉と思いながら食べた記憶が、現在では退屈な夏の象徴として立派な〈ピリモア〉となっています。言葉の使い方としては、〈あ、デジャヴ〉みたいな感覚で、〈あ、ピリモア〉というのが適切なようです。

 世の中の夏のアッパーさについていけない人や、流行のスロウライフが目まぐるしく感じる人々に〈ピリモアを探す夏〉という提案です。

今月のBGM

KONONO N゜1
『Congotronics』
 
Crammed/VIVO
もうすぐ日本に来るらしいです。東京、名古屋、広島はクアトロやのに、なんで大阪だけ河内長野やねん、と思ったら、毎年〈世界民族なんとか〉みたいなのを開催してるらしいです。近鉄線は好きなので観に行きたいです。

PROFILE

次松大助
99年に大阪で結成されたオリジナル・スカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。7月5日には新曲“シュガープールでつかまえて”が、7月7日にはライヴDVD「DVD from RAINBOW TOWN」が、8月23日には新作が……とリリースラッシュ!! 〈www.miceteeth.net〉も要チェック。