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第82回 ─ naomi&goro

連載
NEW OPUSコラム
公開
2006/07/13   23:00
ソース
『bounce』 277号(2006/6/25)
テキスト
文/桑原 シロー

追伸――アコースティックな調べが優しい、そんなアルバムがたくさん届きました


 どうしようああしようこうしよう、スタジオの中で交わされる2人のひそやかな会話からこぼれ落ちる小さな音符のかけら、それらを拾い集めて少しデコレーションしてみせたものがnaomi & goroの作品なのだと、2人のニュー・アルバム『P.S. I Forgot』を聴いてふたたび考える。さて、その内容について。アントニオ・カルロス・ジョビンやカエターノ・ヴェローゾやマルコス・ヴァーリのナンバーをオリジナル曲で挟み込んだ形になっているが、カヴァーとオリジナルの境目がまったく感じられないほどスムースな流れが作られている。カヴァーといえば、前作『HOME(for I+STYLERS)』で、ジャニス・イアンやボビー・コールズボロやカスケーズなどのポップス曲をプレイしていたけれど、そういやそこでも〈境目のなさ〉はアルバムのテーマ、いや会話の主題になっていた。いかなる場合も小細工などすることなく自分たちに相応しい方法でやっているだけ、と彼らのボサノヴァは朴訥とした話し方で説明する。このニュー・アルバムにはただ、いつもと同じ表情を浮かべたnaomi & goroサウンドが並んでいる、とだけ言っておこう。

 また、naomi & goroの伊藤ゴローと青柳拓次、高田漣が組んだトリオ=KAMA AINA/RT/MOOSE HILLによるアルバム『RAINBOW HAWAII』も届けられた。前作『HAWAII, HAWAII』の続編となる今作は、全編ハワイ・レコーディングで、緩さも目映さもいっそうアップ。それぞれのハワイ観をそれぞれのギターの弦の調べに乗せて運んでくれる本作は、絶妙なバランス感が魅力で、困ったことに手元の時計の針の狂いっぷりは前作以上。ひとつの車に同乗しながらも3人共まったく別の景色に見とれていて、なのになぜか会話はきちんと成立している……というふうなイメージが浮かんでくるのもおもしろい。一方、そこに参加している高田漣は、あのマイク眞木とバラにまつわる曲を集めた共演作『ROSE』をリリース。これまたすんばらしい内容になっており、ハワイアンやブルーグラス曲をいなせに歌いこなすマイク氏も、その横で笑顔溢れるプレイを披露する高田のギターも絶品なのだ。最後に、映画「雪に願うこと」の伊藤ゴローが手掛けたサントラに関しても一言。これも映画音楽というフィールドと彼のサウンド・スタイルの境目をまったく感じさせない内容になっていることを付け加えておこう。